ピラミッドは工業的規模でアンモニアや硫酸などの化学物質を生産するために使用されていた
ピラミッドはどのように機能し、どのような化学物質を生産していたのか?
最近、カフラー王のピラミッドの地下に巨大な構造物が検出されたというピサ大学の研究者らの報告が話題になっています。例によって、日本でも関心を持つ人の間でさっそく大騒ぎです。真偽はともかくとして、浮ついた、ロマンを掻き立てることが目的の動画や記事が多いです。ドラム氏は、合成開口レーダースキャンによる画像は既に知られているピラミッド内の構造物を映し出していないという点で、なにか問題があると指摘しています。スキャン画像は、明らかに存在していることが分かっている内部の構造物を映し出せていない点で致命的です。なにか問題があるのは明白です。ちなみに、ドラム氏はこの研究者チームとも親しく、プレスリリースにも参加し、スタッフと討論されています。

オシリスシャフトの位置が実際の測定値と一致しないなど、既知の構成と完全に一致しない奇妙な点がある

考古学の常識を根底から覆すジェフリー・ドラム氏の画期的な研究は、ピラミッドは工業的規模でアンモニアや硫酸などの化学物質を生産するために使用されていたというものです。私は、この説は理にかなっていると思います。これまでの常識的な見方、古代文明へのロマン、考古学の定説などをいったん脇において、ドラム氏の研究に耳を傾けてみてください。そこには、これまでのアプローチの仕方とは全く違った新しい視点と説得力に驚かれるかもしれません。
例えば、ピラミッドやスフィンクスは地下のシャフトによってつながっていることなど、ご存じない方が多いと思います。ジェフリー・ドラム氏の動画は、私たちが普段見ることのないピラミッドの内部やピラミッド周辺の地形や遺物をリアルに映像で見せてくれます。巷の観光目的のような紹介ビデオでは決して見ることのない本当の姿を知ることができます。また、クフ王のピラミッドの王の間や王妃の間、大回廊など、なぜ、あのような構造になっているのか、未だに謎です。王の墓とか、礼拝所、天文学の観測のためなど様々な説があります。さらに「王の間、王妃の間」などと名前がつけられていると、それを前提として解釈し、名前から勝手にイメージやロマンを膨らませてしまいがちです。それは、地下になにか構造物があるという報道後の反応を見れば明白です。しかし、考古学という一つの分野からではなく、化学、物理の視点から観察すると、別のものが見えてきます。従来の考古学者の説明にはなかったものです。
電気的宇宙論のソーンヒル氏は、エレクトリック・ユニバースは学際的な研究だと何度も強調していました。学際的とは学問や専門分野の垣根を超えて心ある研究者がお互いの意見を自由に戦わせることです。専門分野にしがみつく縦割りの学問ではなく、横の連携を重視します。わたしはここにジェフリー・ドラム氏の研究や電気的宇宙論の可能性、面白さを感じています。本当の原因は何だったのかがわかってくると、その結果が理にかなっているかどうかは自然に導かれます。
以下は、以前に書いた記事「巨石の化学:アンドリュー・ホール、ピラミッドの謎について画期的なジェフリー・ドラムの新説(The Land of Chem)を紹介」の中でホール氏が「私は単に、彼の仕事を臆面もなく宣伝し、広める手助けをしたいだけだ」と紹介したジェフリー・ドラム氏の著作『化学の地』の全訳です。ドラム氏は現在も精力的に研究を続けており、その成果をユーチューブで発表しています。
『化学の地』は紀元前7000年頃の時代を背景にした物語形式で書かれています。本文中の画像はジェフリー・ドラム氏のサイトからお借りしました。著作の構成は以下のようになっています。
▲ 謝辞
▲ 第一学位
階段ピラミッドはどのように機能し、どのような化学物質を生成していたのか?
▲ 第二学位
赤いピラミッドはどのように機能し、どのような化学物質を生成していたのか?
▲ 第三学位
屈折ピラミッドはどのように機能し、どのような化学物質を生成していたのか?
▲ 第四学位
大ピラミッド(クフ)はどのように機能し、どのような化学物質を生成していたのか?
▲ 第五学位
中央のピラミッド(カフラー)はどのように機能し、どのような化学物質を生成していたのか?
▲ 第六学位
アイルランドの通路室構造はどのように機能し、どのような化学物質を生成していたのか?

The Land of Chem
By Geoffrey Drumm Copyright © 2020
THE LAND OF CHEM
AN INITIATION INTO ANCIENT CHEMISTRY THROUGH THE DEGREES OF
THE EGYPTIAN PYRAMIDS
化学の地
ジェフリー・ドラム著 Copyright © 2020
古代化学への入門:エジプトのピラミッドの学位を通じて

献辞
『化学の地』は、私の名付け親であるロンダに捧げる。
彼女はいつも、私は特別なことをする運命にあると教えてくれた。この本は、まさにその特別なことだ。
謝辞
私は幼少の頃からピラミッドに魅了されてきた。そして、一生に一度は実際にその目で見ることを最大の夢の一つにしていた。2017年5月、ついにその機会が訪れた。友人のベサニーが、エジプトへの初めての1週間の旅行に同行してくれることに同意してくれたのだ。ただし、翌週にサントリーニ島を訪れるという条件付きだった。悪くない取引で、私たちは人生で最も素晴らしい休暇を過ごした。私は、エジプトでの旅行のために、非常に具体的な、研究重視の旅程を計画したが、ガイドのユーセフは、ダハシュールの赤いピラミッドの内部を見学するなど、予想外のサプライズを用意していた。
ピラミッドに入ると、強烈なアンモニアの臭いに圧倒され、内部の部屋の壁に化学物質による汚れが見えた。この本に書かれている理論やストーリーは、赤いピラミッドでの体験とエジプト訪問の経験から着想を得たもので、私は化学に焦点を当てて、この国の古代の建造物の調査を始めるようになった。このクレイジーな冒険に一緒に参加してくれたベサニー、そしてエジプトのピラミッドの謎を見せてくれたユーセフに感謝する。
『化学の地』の理論を徹底的に研究・開発した後、私は自分の研究をパワーポイントでまとめ、最終的には YouTubeで公開しようと考えた。私は「神聖幾何学の解読(Sacred Geometry Decoded)」チャンネルのアランに連絡を取り、この資料を見せて、エジプトのピラミッドに精通している人にこのアイデアの実現可能性を確かめてもらった。4時間にわたるプレゼンテーションと入り交じった会話を聞き終えた後、彼は私にスタンディングオベーションを送ってくれた。予想外の反応に、私は涙が出そうになり、自分のアイデアを実現するために前進する勇気を得た。その最初の出会いから友人となった私たちは、この3年間、連絡を取り合い、間もなく公開されるいくつかのビデオプロジェクトで協力することになった。アラン、あなたのサポートと励ましに感謝する。
新たな自信を得た私は、父のロジャーに同じプレゼンテーションを提示し、追加の評価とフィードバックを求めることにした。私の父は退役した米軍大佐で、生涯にわたる厳格な人物であり、どのような反応が返ってくるか全く予想できなかった。彼は同じ説明を約3時間にわたり忍耐強く聞き、驚くべきことにその後「それは理にかなった理論であり、非常に説得力がある」と言った。私は驚き、しばらく話し合った後、彼は、私が当初意図していた研究論文を書くのではなく、本を書くことを提案した。私はそれが正しいとすぐに理解し、翌日、『化学の地』の執筆に取り掛かった。私を信じてくれた父に感謝している。
宇宙は不思議な働きをするもので、なぜか私の父は継母フランと共に、エド・エルトンという男が講演する「ヘルメティック哲学の原理」というプレゼンテーションを聴きに行くことになった。まさか父がそんなところに行くとは夢にも思わなかったが、講演後、父とエドはしばらく話し込み、エドが化学工学の博士号を持ち、米国と国際的な特許を複数保有していることがわかった。二人は連絡先を交換し、父は私にエドと会い、その分野の学術的・専門的な資格を持つ人物から研究の批評を受けるよう提案した。大きな不安と興奮を胸に、私はその提案を受け入れ、エドに興味があるかどうかを確かめるために連絡を取った。前の2回よりも当然のことながら懐疑的で厳しい目で見られたプレゼンテーションのレビュー会議の後、エドは私の仕事に純粋に興味を持ち、楽しんでいたようだった。彼は、その理論は科学的に妥当であり、エジプトのピラミッドについて聞いた中で最も優れたものであるとコメントした。特に赤いピラミッドの機能についての私の説明を聞いた中で最高のものだとコメントした。それからというもの、私は自分が重要な発見をしたことを実感し、経験と実績のある人物の支援を得たことで、自分の考えを完成させ、この本のエジプトに関する部分を書き上げるという意欲がさらに高まった。私は、技術的な詳細の修正や明確化を行いながら、エドと協力し続け、その過程で私たちは友人となった。このプロジェクトに協力し、私の理論に自信を与えてくれたエドに感謝している。
『化学の地』の最終章について、私はある仮説を立てていたが、アイルランドを訪れてその古代の通路室構造 passage-chamber structures を調査しなければ、物語の結末を書くことができなかった。数か月にわたる計画を経て、2018年9月、友人のケイトと私はアイルランドへ旅立った。彼女は休暇だと思っていたが、私は研究旅行だと知っていた。私たちはドロヘダ(アイルランド東海岸にある港湾都市)から、ニューグレンジ、ノウス、ダウスを見学し、翌日、豪雨の中、倒木や電線が倒れた道路をレンタカーで走り抜け、フォーノックスとラフクルーの訪問を逃すまいと決意した。その後、アイルランドの東側から西側のスライゴまで車を走らせ、予想以上に長く険しいハイキングの末、ようやくキャロウキールにたどり着いた。通路室の構造に関する私の説を最終的に確定できる発見は、帰国後数ヶ月経ってからのことだったが、この休暇で得た経験が、すべてのピースを組み立て、本の最終章を執筆するために必要なものとなった。答えを求めてアイルランド中を引っ張り回して、ご苦労様、ありがとうケイト。
私はここにたどり着くまで、長く非常に困難な道のりを歩んできた。母エリザベスに、常に支えてくれたことに感謝する。プロの作家が自分の作品に完全に満足することなどあるのか、私にはわからないが、最終的な感謝の言葉を編集者のロウ・カレーネンに捧げる。彼女は私ができる限り作品に近づけるよう助けてくれた。彼女は、技術的な詳細に注いだのと同じだけの情熱を物語に注ぐよう促してくれた。そのアドバイスに従って本当に良かった。この本を現実のものにするために携わってくれた全ての方々に感謝する。私が執筆したのと同じように、この物語を楽しんで読んでいただけたら幸いだ。
紀元前7000年頃
第一学位 The First Degree

アイルランドの港町ドロヘダから北大西洋に入り、ジブラルタル海峡を通ってポルトガルとスペインの海岸を回り、地中海を横断する約5000マイルの旅の後、ジュリアス修道士とアクアリはエジプトへの苦難の航海の結末にたどり着いた。古代都市サッカラの賑やかな港に到着し、ジュリアス修道士は階段ピラミッド群の南東にある川の神殿に船を停泊させた。
エジプトは夏で、アケトの最盛期だった。ナイル川の氾濫した水はすでに神殿の敷居に達していた。川から吹き上げる風を背中に受けながら、彼らは水面から印象的な石造りの建造物へと続く、一部水没した通路を歩き始めた。
アフリカ大陸への1ヶ月に及ぶ過酷な遠征の疲れも見せず、銀髪の老人は驚くほど機敏に神殿の中を土手道に向かって早足で進んでいった。アクアリは彼のペースについていくのに必死で、これから夜にかけて参加する冒険について空想しているうちに遅れをとってしまった。
30歳になったときにケム(化学の)騎士団 Order of Chem に入団し、3年間の修行期間を経て、アクアリはついにエジプトのピラミッドの学位 Degree を受けるのに必要な年齢に達した。彼は最も尊敬される男たちの足跡をたどり、その一歩一歩が彼らの一員になることに近づいていた。
興奮を抑えながら、アクアリは集中し、師匠に追いつこうと先を急いだ。
二人の旅人が階段ピラミッドの複合施設に近づくと、西の水平線にゆっくりと沈む黄金色の太陽の最後の瞬間を目撃することができた。空は、鮮やかな紫とオレンジの色調で巧みに彩られていた。アクアリが上のほうに見た見事な美しさは、その下にある驚くべき建造物に完璧に映し出されており、彼はこの対応原理の壮大な表現に畏敬の念を抱いた。彼の故郷であるアイルランドの田舎の素朴な建築物とは比べ物にならない階段ピラミッドを囲む40エーカーにも及ぶ広大な複合施設は、圧倒的な光景だった。二人は、その雄大な素晴らしさに、ただ静かに立ち尽くして、その美しさを眺めていた。アクアリが目の前に見た壮大な光景は、彼がこれまで経験したことのないほどだったが、彼は、これが化学の地 Land of Chem で騎士団のメンバーたちが成し遂げたことのほんの始まりにすぎないことを知っていた。
エジプトのピラミッドは、その文明の膨大な知識の蓄積を体現しており、この壮大な建造物の中に隠された神聖な謎への入門には、最も優秀な若者たちだけが選ばれていた。アクアリは、これらの深遠な秘密の守護者に選ばれ、ピラミッドとケム騎士団の隠された活動が、彼らの文明の繁栄を支えている仕組みについて学ぼうとしていた。
彼の文明のすべての若者に教えられていた、算術、幾何学、音楽、天文学からなる大学レベルの4学科 Quadrivium(ラテン語、中世の大学の4学科:自由7科のうちで、初歩的な3学科の後で教えられる、幾何、天文、音楽、算術の四科目を指す)カリキュラムは、アクアリにとって当然のことだった。年齢にもかかわらず、彼は村では評判の良い賢者として知られており、その高潔な生活により、ケム騎士団への入団資格を得た。そこで修行期間中に、化学の原理を初めて学んだ。
一般の人々は、この禁じられた科学は魔法であり、その研究は、入会の儀式に選ばれた者だけにふさわしい行為だと考えていた。しかし、アクアリは、魔法は実際には化学の包括的な理解だということにすぐに気づいた。この古代の学問に没頭し、教師たちの期待をすべて上回る成果を上げ、この科学を通じて宇宙を支配する不変の法則を発見し始めたことで、彼の人生は新たな道へと決定的に進んだ。
アクアリが化学の最初の授業で見た、沈殿反応の神秘的で本質的な美しさは、彼の心の奥底に深い感動を呼び起こし、彼はすぐにこの科学に魅了された。過去3年間、彼はこの特別な瞬間を追求するために人生を捧げ、化学の地を訪れてエジプトのピラミッドの学位を取得し、同胞たちの成果を直接体験してきた。
ジュリアス修道士が学位取得のために選んだ丘の上からは、広大な階段ピラミッドの複合施設を一望できる絶好の眺めだった。アクアリはその構造に精通しており、その威厳ある外観は、その中に隠された秘密への魅力的な前奏曲となるよう意図されていることを知っていた。修行期間に化学に対する卓越した能力と熱意を示した彼は、エジプトへの旅に出る前に、ピラミッドの建築図面を研究する特権を得た。謎めいた図面はアクアリの想像力を刺激し、彼はその内部構造を記憶した。彼は、小さな寝室で何時間もかけて構造物の内部の構成をスケッチし、その機能を解読しようと知力を尽くした。
この経験で得た知識に頼って、アクアリは心を清め、階段ピラミッドの図面を頭の中で思い描いて準備を整えた。6層の巨大な建造物の真下に座ると、垂直に伸びる長方形の中心のチャンバーは、地下のシャフトのシステムにつながっていた。アクアリは、各ピラミッドの独特な内部構造には非常に特殊な機能があることは知っていたが、その構造がどのように機能しているかを理解することは、彼の理解の及ばないことだった。
夕日が夜へと変わっていく中、彼は旧友とともに、遠くにある威厳ある施設の前に立っていた。アクアリがこの旅に抱いていた期待はすでに満たされており、彼はジュリアス修道士が第一学位を開始すると、熱心に耳を傾けた。
「アクアリよ、そなたの修業は化学のサイエンスにおけるあなたの適性を試すものだったが、そなたは卓越した能力でそれを成功させた。そなたは、エジプトの私たちの文明に関する真実を知るにふさわしい人物であることを証明した。
階段ピラミッドの建設の歴史は、私たちの民族がナイル川流域に定住した歴史と切り離して考えることはできない。最後の氷河期の終わりに、世界的な大洪水により人類は絶滅の危機に陥った。私たちの古代の故郷から逃れた者たちは、新しい故郷を求めて大西洋を渡り、かろうじて大災害を免れた。生存者たちは、アイルランド、ヨーロッパ、アフリカの西海岸にたどり着き、すぐにケム騎士団を設立し、そのメンバーたちに、私たちの神聖な知識の保存と、人類がほぼ確実に陥るであろう永久の闇からの救済を託した。私たちの民はこれらの地域に定住し、騎士団は化学を利用して、大災害後の生存という文明の性質から、余剰農業、世界貿易、製造という文明へと変化させる構造物の建設を開始した」
「ここアフリカでは、私たちの祖先は、エジプトに到達するまで、国内を内陸へと移動し続け、化学の地が私たちの新しい故郷となった。私たちの文明は、1000年以上も前に、モンスーンの雨によってサハラ砂漠東部の広大な砂漠が、農業開発に最適な緑豊かで肥沃な土地へと変化した頃、ナイル川沿いに確立された。人口の増加に伴い、これらの耕作可能な農地にも人々が押し寄せ、ケム騎士団のメンバーたちは、ナイル川流域を、世界がこれまで見たことのないような産業の首都へと変貌させる作業に励んだ。
この頃、騎士団は、この地域における農業と工業の繁栄を支えるために、化学の革新技術を巨大なピラミッド型の建造物に採用した一連の建設プロジェクトを開始した。この革命的な発見の最初のものは、農業廃棄物と牛の糞の発酵実験中に起こった。適切な装置で封じ込められた細菌による消化プロセスでは、原料中の炭素と水素がメタンというガスに変換され、それを回収して利用することができる」
アクアリは、修行の初期段階で初めてメタンについて学んだため、その化学的性質についてよく知っていた。彼は、実験室での燃焼反応の実験で、この驚くべき物質の燃焼性を目の当たりにし、エジプトの人々の偉大な業績は、この基本的な有機化合物によって築き上げられたことを教わった。アクアリは、メタン生産に欠かせない牛の糞尿が、彼の民族が牛を最も神聖な動物とみなしている本当の理由でもあることを知った。彼は、この驚くべき化学物質の用途と重要性を理解し、ジュリアス修道士が第一学位を続けるのを、興味深そうに熱心に聞き入った。
「ケム騎士団の同胞たちは、メタン生成に関する実験的な知識を生かして、工業規模でメタンを生産できる構造物を設計した」と、ジュリアス修道士は遠くにある6層のピラミッドを指差しながら説明した。
「エジプト初のピラミッドの建設が開始された当初、主要な消化室とその入口および置換シャフトは岩盤から直接掘り出された。階段ピラミッドの元の単層プラットフォームは消化槽の真上に建設され、消化槽を密閉するメタン収集室はプラットフォーム内に組み込まれていた。ガスは、収集室の頂部からプラットフォーム上の放出弁システムにつながるシャフトを通じて構造物から抽出された」
「アクアリよ、エジプトのピラミッドは、毎年ナイル川の氾濫と連動して機能するように設計されていた。収穫期が終わり、氾濫が始まると、毎年のメタン生産サイクルが始まった。農業廃棄物や牛糞などの原料は、エジプトの農地から収集され、夏の間、定期的にピラミッドに運ばれた。このプロセスは、神聖な糞を転がす甲虫、スカラベによって象徴的に表現されるようになった。スカラベが子孫の誕生に使う糞を収集するように、私たちの古代の同胞は、この重要な化学物質を生み出すための牛糞を収集した。
用水路が氾濫したナイル川の水をピラミッドの北側にあるピットに導き、そこで材料が混合され液体基質が作成された。基質(酵素が媒介して生化学反応を起こさせる物質)は混合坑から傾斜した流入シャフトを通って消化室に流れ込んだ。この槽内では、牛の糞に含まれる細菌が嫌気性環境下でバイオマスを消化し、物質を分解して、その大部分がメタンである混合ガスを生成する。ガスは液体から上昇し、消化槽の上部にある収集室に蓄積される」
「原料の供給量とメタンへの需要が増加するにつれ、その生産規模も拡大した。構造物の改修第1段階では、ガス収集室の容量が拡大され、プラットフォームが拡張され、拡大された基部の上に三つの補強層が建設され、これによりエジプト初の階段状ピラミッドが誕生した。
改修の第2段階では、化学の地に新しい時代の幕開けとなる高度な建築技術が導入され、階段ピラミッドは、現在見られるような40エーカーのメタン製造施設へと進化し、工業規模でのガス生産が可能になった。施設への水の流れを増加させるため、土で作った用水路は川の神殿から複合施設まで直接つながる石造りの土手道に改築された。構造物の基部は再び拡大され、その上に二つの追加の段が建設され、メタン収集室の体積をさらに増加させた」
「ピラミッドの基盤のこの改造により、元の入口シャフトが覆われたため、構造物の北側に建設された新しい原材料処理施設内の貯水池に接続するために、入口シャフトを延長する必要があった。階段ピラミッドにこの隣接する処理施設を追加することで、一次消化室に供給される原材料の基質の生産が促進され、メタン総生産量が増加した。ピラミッドの西側に農業用資材を一時保管するための貯蔵サイロが建設され、ピラミッド周辺の工業複合施設は、原料の連続供給と基質生産を確保し、生産シーズンを通じてメタンガスの連続排出サイクルを実現するために建設された」
アクアリは、サッカラの階段ピラミッドは実際には化学製造工場であり、その巨大な規模から、それに応じて大量の強力な燃料が生産されていると推測していた。ジュリアス修道士は、弟子の好奇心の高まりを感じ取り、第一学位を強力に推し進めた。
「改修の第二段階において、メタン生産プロセスで生成される追加の分解済み基質材料に対応するため、主要な消化室から伸びる置換シャフトも延長された。この材料は貴重な有機肥料であり、置換シャフトを通じて施設南側の深い坑に排出され、そこで分解済み基質が一時的に堆積された後、収集されて農場に運ばれ農業用に使用される」
「ピラミッド内の改修には、消化槽の頂部にあるメタン収集室と、複合施設の東側に建設されたガス浄化・収集施設を結ぶシャフトシステムが含まれる。この生産段階では、浄化されたメタンを収集・貯蔵する前に、浸透処理で水蒸気や硫化水素などの汚染物質を除去する。階段ピラミッド施設が最終的な改修工事を行った際、化学分野における一連の画期的な発見により、二つの構造物を連結する地下シャフトも建設する必要が生じ、新しいピラミッドが建設された。このシャフトシステムは、現在、階段ピラミッドから次の反応施設、つまり第二学位の場所へ、精製されたメタンガスを輸送するために使用されている」
アクアリは、その話に魅了された。彼は修行期間に、エジプトのピラミッドに関する予備的な情報を少し聞いており、メタンガスの生産はケム騎士団が持つ最も古代の知識の一部であることを知っていた。しかし、アクアリは、ピラミッドが難解な化学と関連していることを知らなかったため、同胞がこの厳重に守られた秘密を、これほど大規模な運用に活かしていただろうとは予想もしていなかった。プロジェクトの全体的な規模は、彼が地上に見たものは、達成されたものの半分にすぎないことを彼に強く印象づけた。アクアリは、師の説明に従って、自分が想像した構成による生産サイクルを頭の中で追って構造を考察し、階段ピラミッドが機能している様子を想像することができた。修行期間に彼が最初に学んだ教訓のひとつは、自然が機能するための最適な条件を整えることで、驚くべき変化をもたらすことができるということだった。アクアリには、この驚くべき建造物の背後には、まさにその意図があるように見えた。
修道士ジュリアスが第一学位を授与している間、月明かりが、大地を覆った夜の闇を照らし出していた。アクアリは、これから先、自分が経験する学位取得の道のりが、自分が予想していたものとはまったく異なるものになるだろうことを、徐々に理解し始めていた。
エジプトのピラミッドについては、常に風変わりな説が流布しており、この段階に入るまで、彼もこうした根拠のない憶測に惑わされていた。しかし、真実は、最も想像力豊かなフィクションよりもさらに壮大なものであることを、彼は学んでいた。アクアリは、修行期間が何かための準備だったことを知っていた。しかし、彼の想像の域を超えるようなことは、夢にも思い浮かばなかった。
化学を初めて体験したとき、溶液から不思議な固体の化合物が奇跡のように出現する催眠術のような魔法に魅了されたが、その神秘的な呪文は単なる化学式にすぎないことをすぐに知った。この基礎科学の秘密は、ケム騎士団によって守られている彼の文明の知識の不可欠な部分であり、アクアリは、その入団者となる過程にあった。
第二学位 The Second Degree


修道士ジュリアスとアクアリは階段ピラミッドの複合施設を後にして、サッカラの港から出発するため、川沿いの寺院に戻った。老人は巧みにボートを南に向かって内陸の主要水路へと進め、アクアリは静かに座って真夜中の景色を眺めていた。遠くには、無数のピラミッドの複合施設やその他の不可解な建造物が、磨かれた表面が銀色の月の光を反射して不気味に輝いていた。これらの素晴らしい建造物は古代の神秘を響かせ、水路がそれらに沿って進む中、若者はその機能について考えを巡らせた。
アクアリは、これらの建造物には余分なものは何もないことを知っていた。そして、その意味を理解できる人にとっては、それぞれの独特のデザインが、その特定の目的を明らかにしているのではないかと想像した。彼にとっては、それがこれらの建造物の魅力をさらに高めているだけであり、入会者 Initiates(伝授を受けた人)たちがこの歴史的な目的地を常に求めてきた理由も理解できた。この謎めいた場所に到着したばかりにもかかわらず、アクアリはすでに、再びこの地を訪れてその秘密をさらに深く探求したいと切望していた。
ダハシュールの無秩序に広がる都市に近づくと、アクアリは心拍数が上がり、予期せぬ不安が徐々に彼を襲い、手が汗ばみ始めた。第一学位で明らかにされたエジプトのピラミッドの真実が彼の意識に広がり、彼は自分が本当にこれから起こることに備えているのかどうか疑った。この地域の構造物の規模は、サッカラの相当古いピラミッドを遥かに凌駕しており、その内部に化学反応で生きている怪物のような存在があることを知らなくても、誰にとっても圧倒的なものだった。
大都市地区に向かう運河を進む代わりに、ジュリアス修道士はその船を、城壁から遠く離れた地域へと続く小川へと進路を変えた。彼は、その地域にある特定の場所を、その夜、船を停泊して野営する場所として選んでいた。翌朝、アクアリが夜明けに目を覚ましたとき、彼は老人の意図をすぐに理解した。彼らのキャンプは赤いピラミッドの真西にあり、太陽はまるで地平線上のナイル川から昇るかのように、その真後ろに現れた。アクアリは、円形の輝かしい金色の太陽の光輪に囲まれた四面体の構造物のイメージを、一生忘れることはないだろうと思った。
アクアリは、修行期間に学んだ化学のノートを熱心に勉強し、すべての化合物と化学式を注意深く復習して一日を過ごした。日没になると、二人はボートに乗って、ジュリアス修道士が第二学位を行う場所として選んだ場所へと続く小川を進んだ。夜が更けると、彼らは目的地に到着し、赤いピラミッドに向かってゆっくりと前進しながら、アクアリは、その迫り来るシルエットが、彼らの前の星空を覆い尽くす様子を畏敬の念を持って眺めていた。老人はボートを、風化した石と土でできた建造物へと続く狭い水路へと進路を変え、その奇妙な人工の丘のふもとに停泊した。銀色の髪のガイドが先頭に立ち、粗い岩の階段を登って頂上の大きな長方形の石造りの台へと向かうと、アクアリは、水路を流れる水が、その奇妙な塚のような建造物の開口部へと流れ込んでいることに気づいた。
高台に到着すると、アクアリは、切り刻まれた巨大な石と、精密な石積みがないことから、彼らがはるかに古い建造物の上に立っていることをすぐに認識した。それは、修道士団 Brotherhood の図書館のアーカイブで見つけた、同様の石造りを描いた手描きの図面を思い出させた。これらは、大洪水直後の時代に、彼の故郷を含む世界中に建設され、エジプトのピラミッドの先駆けとなったものだった。
アクアリは、ケム騎士団の同胞たちがこれらの建造物のすべてに関与していることを知っていたため、アイルランドの石と土の塚も化学物質の製造に使用されていたのではないかと思い始めた。古代の過去からのささやきに気をそらされたアクアリは、集中力を取り戻し、目の前の光景に完全に没頭し始めた。
高台からの眺めはこの上なく素晴らしかった。月明かりに照らされた赤いピラミッドは、地面からそびえ立つ巨大な輝く水晶の頂点のように見えた。この位置からは、北にある階段ピラミッドもまだ見えた。アクアリは、そこで生成されたメタンが、地中のシャフトを通ってこの風景の下を流れている様子を想像した。南の背景には、その秘密を明かそうとするかのように、屈折ピラミッドが彼を手招きしていた。アクアリは、この夢のようなパノラマをさらに眺めていると、修行時代に学んだ、メタンを使って製造される重要な工業用および農業用化学物質に関する基礎的な学課を突然思い出した。
アクアリは、この驚異的な建造物の中に何か素晴らしいものが隠されていることを知っていた。そして、赤いピラミッドがこの重要な化学物質を製造できるかどうか、興味をそそられた。修行期間、この建造物の複雑に作り上げられた内部構造図を何時間も研究してきたアクアリは、赤いピラミッドの構成要素が階段ピラミッドよりもはるかに複雑であることを知っていた。この工学上の進歩は、化学反応の高度化に著しい発展があったことを意味していた。アクアリは、この建造物の中で化学反応を起こすことは可能かもしれないと考え、熱烈な好奇心で、その内部構造を頭の中で再確認した。
赤いピラミッドには、互いに接続された通路を通じてつながる三つの幾何学的に類似したチャンバーが含まれていた。各チャンバーは、長方形の下部と、規則的な間隔で収斂する段状の天井部から構成されていた。最初の二つのチャンバーは、ピラミッドの地面レベルにあり、南北に並んでいる。三番目のチャンバーは、地面から高くなった場所にあり、東西方向に伸びている。ピラミッドの北側から最初のチャンバーへと続くシャフトがあり、三番目のチャンバーからは別のシャフトが構造物から出ている。この設計を念頭に置いて、アクアリは、修行期間中に図面を研究して学んだ詳細は、ピラミッドの概要を知るためのものに過ぎないことを認識した。
第一学位でその真の目的が明らかになったことで、その重要性を過小評価してはならないことがわかった。赤いピラミッドが、彼が推測した驚くべき化学反応の連鎖を実際に秘めているのであれば、第二学位では、ジュリアス修道士が構造に関する多くの隠された詳細を明かすだろう、とアクアリは思った。
その時、アクアリはかろうじて気持ちをコントロールすることができた。彼の熱意に満ちた入会者(伝授を受けた人)の興奮の高まりを察知したジュリアス修道士は、第二学位を開始した。
「階段ピラミッドが建設される前から、ケム騎士団の同胞たちはメタンとその反応性を実験しており、最終的な改修までに、メタンを化学化合物に変換する製造プロセスを開発した。この化学化合物は、化学の地であるこの地に産業的な農業の時代をもたらすものとなった。この画期的な新物質の需要の高まりから、赤いピラミッドの設計と建設が開始された。このピラミッドは、化合物を生成するための化学反応を正確に起こすための独自の機能的な建築要素を備えている」
「赤いピラミッド内部で、北から南へ移動すると、最初のチャンバーは主要な水蒸気改質装置として知られている。生産サイクルを開始するため、ピラミッドの東側にある衛星構造内の貯水槽バルブが開かれ、貯水槽かチャンバーが満たされ始める。システム内の水位は、最初の二つのチャンバーを結ぶ接続シャフトが満たされるまで上昇する。これにより、各室の残りの内部空間が隔離され、主要な水蒸気改質装置内の初期圧力条件が設定される。メタンは、チャンバー(反応室)の北西側に入っている小さなシャフトを通じて、改質装置に導入される。メタンが改質装置に充填されると、反応チャンバー内の水位は再び三段目まで上昇する。このメカニズムにより、水に溶けないメタンガスがチャンバーの上部に押し上げられる」
アクアリは、改質装置内の水位が上昇すると、それがプランジャー(ピストン)のようにガスを押し上げ、チャンバーの収束部分へ押し込むことに気づいた。この最上部では、分子の濃度と衝突速度が高まり、反応の効率が向上する。ジュリアス修道士は続けた。
「水位は3回目に8段目まで上昇する。赤いピラミッドのチャンバー内の上部反応室は、頂点に向かって徐々に体積が減少するように精密に設計されている。メタンが一次蒸気改質反応室のこの領域に圧縮されると、ガスの温度と圧力が上昇する。このプロセスで発生する熱は、水の表面層を蒸気に変換し、この反応段階において必要な二つ目の化学成分となる。上部空洞内の温度と圧力の上昇は、メタンと蒸気との反応を促進し、水素と一酸化炭素を生成する」
「プロセスが完了すると、第2のチャンバー内の排出口シャフトを通じてシステムから水が部分的に排水される。水位は接続シャフトの高さよりやや下まで低下し、水面とシャフトの上部との間に小さな開口部が形成される。この開口部から、一次改質装置の上部に蓄積した高圧の水素と一酸化炭素が、接続シャフトを通って、次のチャンバーである二次空気改質装置の低圧領域へと流れ込む」
アクアリは、ジュリアス修道士が第二学位について説明を進める間、その圧倒的な情報を静かに耳に刻み込んだ。
「最初のシークエンスと同様に、水位を再び上昇させて、二次改質装置を隔離する。水素と一酸化炭素は、チャンバー内の空気よりも密度が低いため、ドームの上部へ上昇する。水位が上昇し、7段目を通過すると、接続シャフトを通って最後の反応チャンバーへ流れ込み、ピットを埋める。水位が8段目に達すると、2番目と3番目のチャンバー間の接続シャフトが満たされる。これにより、変換プロセスの最終段階でガス混合物が接続シャフトを通って最後の反応室に流れ込むのを防ぐ。ガスは上部のドームに圧縮され、温度と圧力の上昇に伴い、水素、一酸化炭素、および空気中の酸素と窒素との反応が開始される。これにより、二酸化炭素、水、窒素、水素の混合物が生成し始める。二酸化炭素と水の副生成物は溶液に溶解し、不溶性の窒素と水素が残る」
アクアリは、赤いピラミッドの能力に魅了された。チャンバー内のガスの体積を操作して温度と圧力を高める技術は、ガスの理想的な挙動を表す最も基本的な方程式から導き出されたものだった。しかし、これらの複雑な化学反応を促進するために、修道士団が単純な物理学を応用したことは、まさに天才的な発想だった。
アクアリは、自分の文明の広範な科学知識が、機能的な調和のとれた構成でこれらの構造物に実装されていることに気づき始めていた。彼は、宝石のようなピラミッドとその内部の動作に魅了され、最後のチャンバーの説明に備えて心を整えた。
「チャンバー内の水位は現在、外部の貯水槽内の水位と同じ高さまで達し、窒素と水素の生成物は二次空気改質器の上部領域に閉じ込められている。その後、精密に削り出された石のブロックが北のシャフトに挿入され、押し下げられることで、システム内の水が一次と二次改質装置を完全に満たす。第2のチャンバー内の上昇する水が、上部のボールト(アーチ形の天井)内に閉じ込められた二つのガスを、接続シャフトを通って第3のチャンバーへと押し出す。窒素と水素は、この最終合成室のボールトに上昇する。石のブロックが北側のシャフトから引き抜かれると、ピラミッド内に含まれる二酸化炭素を溶解した水がシステムから排水され、地下のシャフトを通じて施設外に輸送される。一次および二次改質器内のこのサイクルが、最終合成室が窒素と水素で満たされるまで繰り返され、チャンバーは貯水槽から新しい水で補充される。その後、石のブロックが再び挿入され、シャフトに沿って押し下げられると、水は最終合成チャンバーの西側にある黒い目印の石の下部まで満たされる。温度と圧力の増加により、不溶性の窒素と水素のガス間の反応が開始される。石のブロックが北側のシャフトの底に達すると、水位は最終合成チャンバーの7段目まで上昇する」
「窒素と水素は、水によって最終合成チャンバーの上部ボールトに圧縮され、さらに温度と圧力が上昇して反応が起こり、アンモニアガスが発生する。生成したアンモニアガスは、すぐに回収することで、アンモニアが水素と窒素に分解する逆反応を防ぐ。アンモニアガスは溶解度が高く、下の水に素早く溶解してアンモニア水になる。反応が進むにつれ、生成物は溶液中に溶解し続け、変換の進行を促進する。水酸化アンモニア溶液は、最終合成チャンバーの底部のピットからピラミッドの外へつながる抽出シャフトを通じて排出される。合成チャンバーは、まずアンモニア溶液を回収するために空にされ、その後、二次改質装置の排出口シャフトを通じて残りのチャンバーが空にされ、次の生産サイクルの準備が整う」
アクアリの予想通り、階段ピラミッドからのメタンは、赤いピラミッドでアンモニアに変換されていた。これは、修道士団の化学技術の洗練における大きな進歩であり、このような美しい構造物に、その卓越した技術が応用されていることを、アクアリは大変嬉しく思った。アクアリは、ピラミッドの真の意味を理解し、修道士ジュリアスによる第二学位が終了すると、笑顔で輝いた。
「アンモニアは、肥料に最適な窒素源であり、階段ピラミッドで大量に生産されるメタンを直接利用して、ケム騎士団が最初に開発した新しい化学物質である。しかし、アンモニアとその製造副産物の初期の実験により、エジプトの2番目と3番目のピラミッドを同時に建設する必要のある別の化合物が見つかった。赤いピラミッドの最終合成チェンバーから抽出されたアンモニアの一部は使用のために回収され、残りは地下のシャフトを通って、次のピラミッド、第三学位の場所に運ばれる」
二人は街の外にある野営地に戻り、ジュリアス修道士が火で伝統的なエジプト料理のシシタオク(トルコ、シリア、レバノンなどで一般的な料理で、たれに漬け込んだ鶏肉を串焼きにしたもの)を焼いて夕食を用意した。アクアリは、マリネした肉から漂うニンニクとスパイスの香りに酔いしれ、見知らぬ異国の地にもかかわらず、まるで故郷にいるような気分になった。食事をしながら、彼らは赤いピラミッドの複雑な仕組みや、化学の進化が世界を変えたことについて話し合った。二人は50歳以上も年齢が離れていたが、長年の間に親しい友人となり、アクアリは師匠から学ぶこの時間を大切にしていた。
夕食後、老人はテントに戻って深く眠りについたが、アクアリは、ケム騎士団の功績を理解しようと頭の中で考えを巡らせ、眠れない夜を過ごした。ピラミッドに体現された物理学と化学の専門的技能は、彼の同胞の優れた知性を反映しており、これらの基礎科学を石造りの建造物に組み込むことで、彼らはそれらを生命のない建築物の遺跡から機能的な機械へと変貌させた。アクアリは、洗練された建築技術を利用することで、ケム騎士団がこれらの化学物質の製造に必要な複雑な反応を実現できるとは、想像もできなかった。しかし、この偉業の証拠は、石造りのチャンバーの設計に組み込まれており、ピラミッド自体は、時の試練に耐えるよう建造されていた。
第三学位 The Third Degree


アクアリは、ほとんど眠れない落ち着かない夜を過ごした後、驚くほど元気で目覚めた。その途切れ途切れの眠りの間には、地球そのものの生き生きとした伸展から、魔法のような化学物質が溢れ出すという鮮やかな夢で満ちていた。準備に費やしたその日の間ずっと、彼は自分の足元の地面から豊かなエネルギーが流れ込むのを感じた。その感覚は、第三学位が行われる場所へボートで彼を送るために、ジュリアス修道士が到着した日没まで続いた。
アクアリは、二つの施設が近接していることから、彼らの行き先が屈折ピラミッドであり、赤いピラミッドから地下のシャフトで運ばれているアンモニア溶液がその操作に不可欠であることを知っていた。彼らが停泊した川の寺院から、長い堤防沿いを歩いて建造物に向かって進むと、アクアリは屈折ピラミッドの北東の角をよく見ることができた。
キラキラと光る白い石灰岩の覆いの縁は鋭く、側面の傾斜はピラミッドの上部に向かって緩やかに減じていた。アクアリは、おじけづかせるようなこの建造物にこれまでで最も近づいた。下から見上げると、ピラミッドの巨大な基部は、星明かりの夜空に向かって先細になって消えていくように見えた。不安はあったものの、アクアリはリーダーを信頼し、ジュリアス修道士の後を追って、建造物の南側にある衛星ピラミッドへと向かった。そこで彼らは、貯水池の壁を登る階段を上った。頂上の通路に着くと、アクアリはピラミッド施設の外観を観察した。
屈折ピラミッドの東側では、アクアリは貯水槽の弁のように見える外部構造物を見つけ、北東側では、ナイル川神殿の入口から貯水槽に水を供給する水路が見えた。アクアリは、貯水槽の水がピラミッドの内部のチャンバーで使用され、化学反応を促進するために使用されていたことを知った。しかし、屈折ピラミッドの謎は、これまでの二つのピラミッドよりもさらにつかみどころのないものだった。修行期間中は内部構造の図面も一切見せられていなかったため、赤いピラミッドからここに運ばれているアンモニアの化学的性質について、教わったことを思い出すのに苦労した。答えを求めて想像力を働かせながら、彼は衛星ピラミッドに注意を集中した。一方、修道士ジュリアスは、好奇心旺盛な入信者を静かに観察しながら、アクアリの注意がこの特定のエリアに移っていることに気がついた。
青年がピラミッドの細部にまで注意を払い習得しているのを見て、ジュリアス修道士は喜び、第三学位の儀式を開始した。
「屈折ピラミッドの運用に採用されている原理は、非常に強力な応用可能性を秘めており、ケム騎士団の中でも最も高く評価されているもののひとつなのだ。そのため、この原理は第三学位の儀式のために取っておかれている。水の性質に関する実験を行っているうちに、騎士団のメンバーたちは、密閉された容器内の液体に圧力を加えると、その圧力は容器内のあらゆる点に均等に分散されるという事実を発見した。この液体の圧縮不能性を示す実験は、最初の水圧プレスの発明につながった。この装置は、小さな一次ピストンシリンダーと大きな二次シリンダーの逆比率を利用して、初圧入力を倍増させて重い物を移動させる仕組みである。
この衛星ピラミッドは、屈折ピラミッドの西側のポンプシャフト内にある二つの石製のバルブの動きを制御するために、同様の仕組みで動作している。衛星の東側にあるバルブ選択メカニズムは、二つの二次ピストンシャフトのうちどちらかを閉じるために使用され、どの石製のバルブを動かすかを決定する」
衛星ピラミッドの機能について聞いたアクアリは、修行時代にこの構造の古い図を見つけたことをすぐに思い出した。水圧プレスの仕組みに精通していた彼は、この構造物が、北側に主ピストンシャフト、中央にボールト(アーチ形の天井)のある圧縮チャンバー、その底部に垂直のピストンシャフトからなるシステムで構成されていることを理解した。このシャフトは地下に続き、二本のより大きな二次シャフトに分岐して、メインのピラミッドへと続いていた。
アクアリは、プレスシステムはまず貯水池から完全に水で満たされ、次に石ブロックが一次ピストンシャフトに降ろされ、その力が水を通して二次ピストンシャフトに伝わり、石製のバルブを閉じるのだと考えた。彼は、バルブハウジングの構造と石の重量により、圧力が解放されるとバルブが元の開位置に戻ると想像した。この衛星構造の機能だけでも、ピラミッド内で利用されていた応用物理学の驚くべき例だった。アクアリにとって、これらの普遍的な法則の奇跡的な実証が、彼の第三学位のためにとっておかれたことは当然のことだった。そして、そのような形でそれを受け取ることができたことは、彼にとって大きな名誉だった。
ジュリアス修道士は、印象的な本館の建物の方を向いた。
「アクアリよ、ケム騎士団の兄弟たちは、赤いピラミッドで製造されるアンモニアの管理には、長距離輸送から保管、適用に至るまで多くの課題があることを理解していた。これらの目的に適した形にするためには、気体および溶解したアンモニアを固体化学物質に変換する必要があった。そのため、より実用的な化合物を製造するために、二つの施設が近いことを活用して、赤いピラミッドの隣に屈折ピラミッドが建設されたのだ」
アクアリは、知識豊富な指導者の言葉を一つひとつ聞き逃すまいと耳を傾け、詳細が明らかになるにつれて、若き入会者(伝授を受けた人)は、これらの素晴らしい機械の神秘的な内部構造にますます魅了されていった。
「屈折ピラミッドの内部には、地上に一つ、地下に二つ、合計三つのボールト(アーチ形の天井)のあるチャンバーがあり、反応は上部のシステムから始まる。まず、衛星ピラミッドの水圧プレスが作動して東側の石製のバルブを閉じ、上部の主要反応室を密閉する。次に、赤いピラミッドの最終合成チャンバーから屈折ピラミッドの上部チャンバーの南西の角につながる地下のシャフトを使って、水酸化アンモニウム溶液がシステムに注入される。赤いピラミッドの二次反応チャンバーから集められた二酸化炭素溶液を運ぶシャフトは、屈折ピラミッドに到達する前に、溶液を加熱して溶解したガスを放出するガス抽出施設に到達する。二酸化炭素は、抽出施設から送液シャフトを通って一次反応チャンバーの底部に流れ込み、アンモニア溶液に至るまで抽出される」
「アンモニアと二酸化炭素の反応により、固体のアンモニウム重炭酸塩が生成される。この放熱反応は、製品の早期分解を防ぐため、適切に制御する必要がある。反応で発生する熱は、ピラミッドのチャンバーと本体を構成する石のブロックを通じた伝導冷却により放散される。屈折ピラミッドの建設中、修道士団は、岩盤を掘って下部のチャンバーを作り、一次反応チャンバーをピラミッドの巨大な基部に埋め込むことで、構造物の温度調節機能を強化した。内部システム内の熱は、チャンバーの壁を通してピラミッドの土台を囲む石、そして大地へと伝達される」
アクアリは、ジュリアス修道士が学位の話を続けるのを熱心に聞いていた。
「一次反応チャンバーにはさらに二酸化炭素が導入され、残留する溶解したアンモニアと反応し、溶液が飽和状態に達すると、水溶性の炭酸水素アンモニウムが沈殿し始める。その後、西側の石製の弁を閉じ、東側の弁を開き、飽和した炭酸水素アンモニウム溶液が、一次反応チャンバーから、下部の分離チャンバーの上部ボールト(アーチ形の天井)で終わる接続シャフトを流れる。この溶液は、下部のシステムを、上部の分離チャンバーのボールトの最初の段まで満たすのだ」
ジュリアス修道士は、入信者が聞いたことを熟考し、理解していることを確認するために、少し間をおいた。アクアリは、目の前の構造の中で起こっている驚くべき操作を想像して微笑み、うなずいて同意した。
老人は続けて、
「これらの分離チャンバー内の温度と圧力が低下すると、溶解した炭酸水素アンモニウムと二酸化炭素が溶液から分離する。二酸化炭素ガスが上部の分離チャンバーのボールトに上昇すると、固体の炭酸水素アンモニウムの沈殿物が下部の分離チャンバーの底に沈殿する。分離プロセスが完了すると、炭酸水素アンモニウム(重炭酸アンモニウム)産出物を含むスラリー(懸濁液)は、下部の分離チャンバー底部のシャフトを通じてピラミッドから抽出される。その後、北側と西側のポンプシャフトを使用して、残留する二酸化炭素ガスと炭酸水素アンモニウムの残渣を回収する」
「ピラミッドの西側の石造の弁と東側の貯水槽の弁を開き、貯水槽からの水がチャンバーに流れ込み、内部システムが外部貯水槽の水位と同じ高さまで満たされる。次に、石ブロックを北側と西側のポンプシャフトに挿入して押し込み、水を一次反応チャンバーのボールトに押し込み、二酸化炭素ガスと炭酸水素アンモニウムを溶解する。その後、溶液はシステムから排出され、生産サイクルが再開される。製品を完成させるには、屈折ピラミッドの分離チャンバーから抽出されたスラリーをろ過して水分を取り除き、乾燥した固体の炭酸水素アンモニウムを残す。この化合物は、保管、輸送、作物への施用が容易で、窒素含有量の高い優れた肥料である」
「アクアリよ、階段ピラミッドから赤いピラミッド、屈折ピラミッドに至る建築、工学、石積み技術の進化は、化学の分野において私たちの同胞たちが達成した驚異的な進歩を反映している。しかし、この三つのピラミッドは、エジプトに建設された工業用化学製造施設の最初のものに過ぎない。私たちの文明の究極の成果を見、エジプトのピラミッドの学位の最後の謎を知るためには、第四学位の場所であるギザへと北へ旅しなければならない」
アクアリとジュリアス修道士は、衛星ピラミッドの通路の上から降り、ナイル川の寺院にあるボートに戻った。
街に戻る船上で、アクアリはサッカラとダハシュールのピラミッドでの体験について考えた。最初の三つの学位で受けた教えは彼の人生を変え、この非現実的な冒険の記憶は彼の中に永遠に残ることになった。レッスンを重ねるごとに、アクアリはこれらの建造物の素晴らしさにますます魅了されていった。すべてのチャンバーは、ジュリアス修道士が説明していた化学反応を起こすように精密に設計されており、ケム騎士団は、それらを自然の力と調和して機能する一連の流れに統合し、工業規模の製造プロセスを構築する方法を知っていたのだ。
翌朝、彼らはギザに向けて出発した。ギザは、エジプトのピラミッドの学位を経ていく入会者(伝授を受けた人)たちにとって神聖な目的地だった。アクアリは、修道士団の最も深い秘密を受け取ろうとしており、緊張で眠れないだろうと思っていた。しかし、その夜、アクアリは、自分が受け取った知識の背後にある科学に安心し、自分の民族とエジプトのピラミッドの真の知的遺産が化学であることを知ったことで、簡単に眠りに落ちた。



第四学位 The Fourth Degree


翌朝、日の出とともに、アクアリとジュリアス修道士はナイル川を北に向かってダハシュールを出発した。階段ピラミッドの複合施設を通過すると、アクアリは、メタン生成の古代の謎と、この原始的な科学が、その後の産業規模の化学の革命的な発展の基盤となったことを考えた。サッカラとダハシュールの作業の全貌を目撃した若者は、メタン発見がなぜ彼の民が牛を神格化するに至ったのか、今や真に理解していた。
川を少し上ったところで、ジュリアス修道士は船を岸辺に向かって傾け始めた。アクアリは、まだ最終目的地に到着していないことを知っていたため、予期せぬ展開に心臓がドキドキした。ジュリアス修道士は何も言わず、巨大な赤色の花崗岩と黒色の玄武岩のブロックでできた建造物のそばの川岸にボートを停めた。
老人は黙ってアクアリをその建造物の中へ導き、小さなピラミッド群へと続く土手道を歩いた。最初のピラミッドに到着すると、ジュリアス修道士はアクアリの方を向いて、低く用心深い声でこう言った。
「この場所はアブシールと呼ばれている。そなたに見せなければならないものがある」
※アブシールのピラミッド群は、西部砂漠の高原、耕作地の端に位置し、北にはギザのピラミッド、南にはサッカラがそびえ立つ
老人はアクアリを堤防の階段を上って寺院へと導き、一連の圧倒されそうな赤い花崗岩の柱の間を通って、すべてが黒い玄武岩で造られたチャンバーへと続く廊下へと案内した。ジュリアス修道士は暗いチャンバーの入口に留まり、アクアリはチャンバーの奥にある開口部に向かって歩いた。若者は開口部に到達すると下を向いた。黒い玄武岩の床から突き出ている赤い花崗岩の導管の一部が、同じく赤い花崗岩で彫り込まれた大きな鉢に向かって伸びているのが見えた。その瞬間、彼は石の床を通じて激しい震動を感じ、暗く悪臭を放つ液体が導管を通じて彼の足元の鉢へと流れ出した。
彼は、その寺院が隣接するピラミッド内で生産されている化学物質の収集場所であることに気づいた。そして、ジュリアス修道士は彼らの訪問を正確にタイミングを合わせていたため、彼はそのシステムが稼働している様子を目撃することができた。きらきらと輝く目を大きく見開き、満面の笑みを浮かべたアクアリは、はやる思いで師匠のところへ戻った。ジュリアス修道士は、この青年の心の中に、決して消えることのない化学の地への好奇心を芽生えさせたことを実感した。
新たな活力を得た二人はボートに戻り、ナイル川を上る旅を続けた。ギザに近づくと、アクアリは、遠くの台地の上に三つの巨大なピラミッドがそびえ立つのを見ることができた。彼は、アイルランドの故郷で、ケム騎士団と謎めいた大ピラミッドについての噂を初めて聞いたときから、この機会を夢見ていた。アクアリが成人すると、彼はすぐに修道士団への入会を申請するチャンスをつかんだ。
修行期間中に初めてこれらの構造物の複雑な図を見た彼は、その秘密を解き明かし、いつかエジプトへ旅立ち、多くの先人たちのようにエジプトのピラミッドの学位を取得する資格があることを証明しようと決意した。彼はこの目標の達成に生涯を捧げ、それが現実になったことをほとんど信じることができなかったが、アクアリは、自分がギザの三つのピラミッドを見る運命にあることを心の底から信じていた。
ジュリアス修道士は、中央のピラミッドの東にあるギザ台地の主要港に船を浮かべ、船を停泊させた後、修道士団が最終段階の学位を授与するために建設した寺院にアクアリを案内した。太陽が沈む前の最後の光を利用し、アクアリは第四学位に備えて心を清めるため、一人で出発した。彼はしばらくの間、目的を持って歩きながら寺院を探索し、ピラミッドの設計者の知的能力について静かに考えを巡らせたが、すぐに、目の前に広がる別世界のような偉業の高潔な存在(霊気)に夢中になった。寺院の西側で、アクアリは、磨かれた白い方解石でできた小道を見つけた。その小道は、一枚岩でできた測量塔に向かって続いていた。
精悍な青年は通路を進んでいったが、突然、まるで天空から現れたかのようにジュリアス修道士が現れたので、驚いて立ち止まった。アクアリは、目の前の建造物にうっとりして、後ろから近づいてくる老人の足音に気づかなかったのだ。ジュリアス修道士は面白がった。彼は、エジプトのピラミッドと、自分が得ている知識に対する、この若者の目の情熱を容易に理解できた。微笑みながら、彼はアクアリのそばに近づき、彼をその建造物へと案内した。
二人の同胞は測量塔に到着し、登り始めた。頂上の展望台に近づくと、アクアリは不安に襲われた。この壮大で畏敬の念を抱かせる光景は、彼の予想を完全に覆すものだった。その見晴らしの良い場所からは、ギザ台地全体を見渡すことができた。風景を覆う建造物の規模と複雑さは、理解を超えるものだった。アクアリは、予想外の情報の洪水に頭の中が混乱し、めまいがして、ひざまずいて吐き気が収まるのを待った。
ジュリアス修道士は、入会者(伝授を受けた人)の苦悩を予期していた。エジプトのピラミッドの学位を通じて真実が明らかにされるような方法は、最も強い人間でさえ認知的不協和に陥ってひざまずいてしまうだろう。しかし、彼は、この才能ある若者が第四学位に入ったショックから立ち直る能力があると信じていた。
アクアリが目を閉じて深く呼吸をしている間、老人は地平線から昇る月を辛抱強く見守っていた。気持ちを落ち着かせた若者は立ち上がり、自信に満ちた表情でジュリアス修道士に向き直った。アクアリは、まるで死から蘇ったような気分だった。後戻りはできないことを悟った彼は、ためらうことなく師の後を追って見晴らしの良い高台へと向かった。
三つのギザのピラミッド、ひとつはさまざまな色に変化する白い石灰岩で覆われ、二つは白い石灰岩で覆われ、その基部は血のような赤色の花崗岩で覆われている。それらは、月明かりに照らされて輝き、その貯水池は上空の恒星を完璧に映し出している。それらは生きている。
アクアリは、ギザ台地の北側にある大ピラミッドに目を向けた。神聖幾何学の万物のブループリントを用いて設計されたこの建造物は、最も素晴らしい固有の美しさを備えた建築の傑作である。それが前景に単独で建っていただけでも印象的なものだが、他の二つの巨大なピラミッドと並んでいることで、驚くほど芸術的な構図を生み出していた。アクアリは、この時代を超越した遺跡の存在に魅了されながらも、集中力を維持し、ジュリアス修道士が全てお見通しだという目つきで第四学位を始めると、その話に耳を傾けた。
「ギザの大ピラミッドは、間違いなく、ここエジプトのケム騎士団の最高の成果であり、その設計と運用の要素には、そなたの古代の同胞たちが長年にわたって生み出した最も驚異的な科学的発展が組み込まれている。より具体的には、そなたの目の前にあるこの建造物の運営には、屈折ピラミッドの建設後に発見された高度な化学製造技術が活用されており、あらゆる産業分野に応用できる強力な化学物質の合成が可能になっている。
この物質の製造は、貯水池内の水を地下のチャンバーに移してそのチャンバーを満たすことから始まる。貯水池は最大容量まで満たされ、その高さは構造物内に降りる北側の充填シャフトの開口部の高さと同じである。ピラミッドが稼働中、貯水池の東側にあるロックシステムが開かれ、川の水路から追加の水が構造物内に流入する。
余分な水は充填シャフトを通って地下システムに流れ込む」
「地下のチャンバーと北側の下降するシャフトが最初に満たされ、システムにさらに水が導入されると、その水は井戸のシャフトにも上昇する。このシャフトは地下システムとピラミッドの上部チャンバーを接続しており、逆流を防ぐ一方向弁が設置されている。内部システムは、外部貯水池内の水位と同じ高さまで満たされ、その後、石ブロックが北側のシャフトに挿入される。ブロックがシャフトを下って移動すると、地下チャンバーの独特な構造により、下部システム内に圧縮が生じ、井戸シャフトを通って水が上部チャンバーに押し上げられる。一方向弁は、下部システムが排水される間、これらのチャンバー内に水を閉じ込める」
「地下ポンプシステムを最初に作動させると、中央のチャンバーと接触処理チャンバーが、アンティチェンバー antechamber(副室)につながる上向きの階段の高さまで満たされる。この段階が完了すると、硫黄炉が作動する」
修道士ジュリアスが最後に発した言葉の数々は、アクアリの好奇心を激しく刺激した。彼は、美しい黄色の元素である硫黄についてよく知っていた。その化学的性質は、彼の教育に欠かせない部分であり、それが大ピラミッドの運用に組み込まれていると聞いたことで、彼の頭はフル回転した。アクアリは、修行期間中に提示されたピラミッドの図面を熱心に研究し、その構造の内部構成についてよく知っていた。
前の学位で得た知識をこの図面に適用して、若い入会者(伝授を受けた人)は、最上部のチャンバーが硫黄炉であると推測した。このチャンバーは、ピラミッドの他の部分で使用されている石灰岩とは対照的に、構造的に強化された巨大な花崗岩のブロックで構築されているという点で独特だった。また、その膨大な容積と構造内の位置から、傾斜したボールト(アーチ形の天井)のあるチャンバーは、接触処理チャンバーであると推測した。中央のチャンバーについては、アクアリは、抽出チャンバーとして機能しているのではないかと推測した。
その瞬間まで、アクアリは自分がこれらの構造物の読み方を学んでいたことに気づいていなかった。彼はもはや、経験の浅い新米ではなく、修行期間に受けた化学の指導は、これらの学位で学ぶ内容を理解しやすくするためのものだったと認識し始めていた。化学と物理学は、エジプトのピラミッドに生命を吹き込み、これらの科学の知識は、ピラミッドの仕組みを解釈するために活用できた。工業生産プロセスの各段階では、基本的な原理を利用して奇跡的な化学反応を実現しており、アクアリは、ジュリアス修道士が、大ピラミッドの最も重要な構成要素について説明するのを熱心に聞いていた。
「反応プロセスのこの段階では、溶融硫黄が炉の北西隅に伸びるシャフトを通じて炉内にポンプで注入される。炉のアンティチェンバー内にある三つの石のブロックが炉を密封し、溶融硫黄のレベルがチャンバー内で上昇し、最終的に長方形の花崗岩のるつぼ(坩堝)に溢れ出すまで保持される。坩堝が満たされると、残りの液体は同じシャフトシステムを通じてチャンバーから排水され、メタン点火シーケンスが開始される。ピラミッドの外側から硫黄炉につながる南側のシャフトは、メタンをチャンバーに供給するために使用される。可燃性ガスはシャフトを通じて炉内に充填されるまでポンプで送られ、その後点火薬に火が点けられ、メタン燃焼が開始される。燃料が南側のシャフトを通じて炉内に燃え移ると、鋳型内の溶融硫黄も点火される。硫黄炉から外へ伸びる北側の排気シャフトは、点火シーケンス中にチャンバー内の圧力を軽減する」
「この段階では、メタンは完全に燃焼し、るつぼの中には溶けた硫黄だけが燃え続ける。次に、接触プロセスチャンバー内の水位は、中間チャンバーにつながる下段ステップまで下げられる。このプロセスにより、北側と南側のシャフトを通じて炉内チャンバーにさらに空気が引き込まれ、燃焼が促進され、硫黄と酸素の化学反応が発生し、二酸化硫黄が生成される」
ジュリアス修道士は、弟子の反応を観察して理解度を確認し、アクアリの笑顔を見て満足した。若い入会者(伝授を受けた人)は硫黄炉を想像しており、ジュリアス修道士は、アクアリの目に、その元素のエレクトリックブルー(放電時に発生するイオン化した空気の輝きにちなんで名付けられた)の炎が踊っているのが見えたようだった。
老人は続けた。
「るつぼ内の硫黄が燃え尽きると、石のブロックが北と南の空気シャフトに挿入され、炉室に充満していた高密度の二酸化硫黄を炉のアンティチェンバーから外に押し出す」
ジュリアス修道士はしばらく話を止め、アクアリは老人の表情の変化に気づいた。彼の眉が緊張し、アクアリの目を、これまで見たことのない強い眼差しで見つめた。ジュリアス修道士は、柔らかく、しかし直接的で不吉な口調で、再び話し始めた。
「アクアリよ、大ピラミッドの炉のアンティチェンバーは、二酸化硫黄を接触プロセスチャンバーまで通過させるよう精密に設計されており、その中の三つの石ブロックは、るつぼの充填作業中に炉チャンバーを密閉する役割も果たしている。アンティチェンバーの南壁にある四つの深い溝は、二酸化硫黄がチャンバー内に流れ込み、石のブロックの上を流れるようにしている。ガスはブロックの上部を通ってアンティチェンバーの上部を通過し、接触プロセスチャンバーに収まる。その後、地下のポンプシステムが再び作動し、接触プロセスチャンバー内の水位が上昇する。水が上向きの段に向かって上昇すると、二酸化硫黄ガスが水に溶解して亜硫酸(H2SO3)を生成する。亜硫酸は不安定な化合物であり、チャンバー内の空気中の酸素と酸化して、硫酸(H2SO4)の希薄溶液を生成する」
アクアリは、修行時代に酸性化合物について学び、その驚異的な機能についてよく知っていた。ケム騎士団は、これらの化学物質を工業用途だけでなく、鉱業、分離、金属の精製を行う専門部門でも使用していたことを彼は知っていた。実験室でのデモンストレーションで、彼はこれらの強力な物質が引き起こす激しい反応を目の当たりにし、大ピラミッド内の石造りのチャンバーが、その猛烈な効果にどのように耐えることができるのか、すぐに疑問に思った。じっと考え込んで、アクアリは額を手で揉みながら、その驚くべき建造物をじっと見つめた。
ジュリアス修道士は、この反応を、入会者(伝授を受けた人)の好奇心の高まりと受け止め、すぐに第四学位を再開した。
「ダハシュールのピラミッドにおけるアンモニアと重炭酸アンモニウムの生成と同様に、硫酸を生成する接触反応チャンバー内の反応は極度な発熱反応であり、その熱エネルギーは大ピラミッドの巨大な石の構造体への伝導によって調節されている。修道士団は、屈折ピラミッド内で苛性重炭酸アンモニウム溶液によって生じた損傷の経験から、化学的に耐性のあるコーティング化合物を開発し、大ピラミッドの上部三つのチャンバーに塗布して石ブロックを腐食から保護した。内部構造の損傷の可能性は、抽出チャンバー東側の窪み下にあるシャフトを通じてピラミッドから希硫酸溶液をすぐに除去することで軽減されている。内部システムが排水される際、炉内に残存する二酸化硫黄はアンティチェンバーを通って接触プロセスチャンバーに吸引され、その後の生産サイクルで溶液中に回収される」
ジュリアス修道士は第四学位を完了し、アクアリは完全に言葉に詰まってしまった。目を大きく見開き、心臓が激しく鼓動する中、彼は視線を師から彼らの前にそびえるギザ台地のピラミッドに戻した。
この学位の奥義は、彼の知的能力を完全に超えるものであり、試練でもあった。しかし、彼は修行期間に身につけた基礎に頼って、神経を落ち着かせた。実験室での化学の入門は、ケム騎士団の前任者たちが実施した工業規模の化学に備えるための準備だったことが、彼にははっきりとわかった。
エジプトのピラミッドは、アクアリにとって常に魅力のある存在だったが、この旅の準備で得た知識がなければ、その真の意味を理解することはできなかっただろう。彼は、月明かりに照らされて夜空に浮かび上がる三つのギザのピラミッドを遠く見つめていた。それらは、学際的な古代科学のシンフォニーであり、その複雑さとシンプルさに驚嘆させられた。古代の同胞たちの創意工夫に畏敬の念を抱き、アクアリは考えをまとめる間もなく、ジュリアス修道士はすぐに第五学位を開始した。
第五学位 The Fifth Degree




「アクアリよ、ダハシュールで、そなたは赤いピラミッドと屈折ピラミッドの機能を統合することで、アンモニア溶液が固体の重炭酸アンモニウムに変化することを学んだ」と、ジュリアス修道士は話し始めた。
「ここギザの台地でも、大ピラミッドと中央ピラミッドは連携して機能し、別の化学変化を起こしている。中央ピラミッドは、大ピラミッドから生成される硫酸を、より反応性の高い化合物に変換するように設計されている。この神殿の真下にあるナイル川の水取口は、中央ピラミッドを囲む貯水池を埋める堤防を通って水を導いている」
ジュリアス修道士は、遠くにある、赤色の花崗岩の土台と磨かれた石灰岩で覆われた、その景観の中で他のあらゆるものを圧倒する壮大な建造物を指さした。
「南側の衛星ピラミッドには、ダハシュールの屈折ピラミッドと同様の水圧プレス機構が組み込まれている。この構造物は、中央のピラミッドの上部と下部の貯水槽の取水シャフト内の石造りのバルブの動作を制御している。化学製造プロセスの初期段階において、水圧プレスが作動し、石製のバルブを閉じて貯水池の水が内部構造に流入するのを防ぐ。この内部構造は、シャフトシステムで接続された二つの反応チャンバーから構成されている」
アクアリは中央ピラミッドの内部構造についてよく知らなかったため、ジュリアス修道士がその機能を説明し始めるのを、期待に胸を膨らませて聞いていた。
「ピラミッドの主要な反応チャンバーは構造物の中心部、地面レベルに位置し、生産サイクルを開始するために飽和塩化ナトリウム溶液で充填されている。この溶液はピラミッドの東の寺院で調製され、主要な反応室の底部、西側の端で終わるシャフトシステムを通じて構造物内に導入される。反応チャンバーの低くなった部分は飽和溶液で満たされ、水が蒸発すると固体の塩化ナトリウムが沈殿する。次に、硫酸が反応チャンバーの北東上部の角に通じるシャフトを通じて注入される。硫酸が反応チャンバーの西側に流れ込むと、ナトリウム塩化物と反応して硫酸水素ナトリウムと塩化水素ガスを生成する」
「塩化水素ガスは空気よりも密度が高く、一次反応チャンバーから流れ出し、シャフトシステムの水平部を通って傾斜部を下り、抽出チャンバーへ流れ込む」とジュリアス修道士は続けた。
「次に、衛星ピラミッド水圧プレスシステムは、下部の貯水槽吸水シャフト内の石製バルブを開くために無効化される。塩化水素ガスは水に非常に溶けやすく、チャンバーに流れ込む際に急速に水に溶解し、塩酸を生成する。抽出チャンバーシャフト内のバルブが開かれ、ピラミッドから生成物を回収する。このプロセス中、上部シャフト内の石製バルブも開かれ、水がシャフトの傾斜部へ流れ込む。このメカニズムにより、システム内に残る塩化水素ガスが溶液に溶解され、抽出チャンバーが洗浄される」
「腐食損傷を軽減するため、中央ピラミッドの内側チャンバーにも化学的に耐性のあるシーラーが塗布され、製品は抽出チャンバーからすぐに取り出し、塩酸を回収する。抽出チャンバーは排水され、石製バルブが閉じて生産サイクルが完了する。次に、抽出シャフトバルブを閉じ、上部の貯水槽吸気シャフトを再び開き、内部システムに水を満たして、一次反応室に残っている硫酸水素ナトリウムを溶解して回収する。次に、この硫酸水素ナトリウム溶液は、抽出チャンバーシャフトを通ってピラミッドから除去され、生産サイクルが再開される」
ジュリアス修道士は、長い間深く息を吸い込み、遠くにあるギザの三つのピラミッドを静かに見つめていた。何も言わず、彼はアクアリの方を向いて微笑み、友愛の握手で同胞を抱きしめた。そして、アクアリを高台から降ろし、ギザの街へ移動して一晩休むことにした。
アクアリは翌朝、修道士ジュリアスが眠っている間に亡くなっているのを見つけた。友人であり師である人の突然の死に、若者は打ちひしがれたが、旅と最後の夜を彼と過ごせたことを心から感謝した。喪が明けた後、葬儀が執り行われ、世界中からケム騎士団のメンバーたちがエジプトに集まり、亡き修道士を偲んだ。
アクアリはアイルランドへの長い旅の準備をしていると、修道士ジュリアスがエジプトのピラミッドの学位の最後のマスターであり、授けられた神聖な知識は彼の管理に委ねられたことを知らされた。そのとき、アクアリは、修道士ジュリアスが化学の地に到着したとき、故郷に戻るつもりはまったくなかったことを理解した。
第六学位 The Sixth Degree




アクアリとケム騎士団の同胞の一行は、アイルランドの故郷へと戻り、長い旅の末、港町ドロヘダに無事到着した。若者は、その人生における偉大な仕事となる、この国の古代の石造建築物を調査し、その失われた目的を発見するという任務に、すぐに取り掛かった。修行期間、アクアリは、これらの建造物は修道士団がアイルランドに定住した後に建設されたものだと知った。そして、ダハシュールの奇妙な石と土の塚の上で第二学位の儀式を受けたとき、これらの建造物は化学反応を起こすために設計されたものだと確信した。
冒険の準備として、アクアリは修道士団の図面を見て、ニューグレンジという遺跡について調べた。これは、この地域最大のマウンド構造物(人工の巨大な土塁)であり、ボールト(アーチ形の天井)のある中央の石造りのチャンバーへと続く通路があり、その両側には、地面に石造りの盆が埋め込まれた三つの小さなチャンバーがあった。ドロヘダに近かったため、アクアリの最初の目的地となった。
アクアリはボイン川沿いを内陸に向かって進み、ミース州に入ったところで、前方の川が曲がる場所にある丘の上に古代の遺跡が見えてきた。彼はボートを停泊させ、丘を登り始めた。登る間、周囲の風景を注意深く観察した。川岸に近い湿地帯は徐々に固い地面に変わり、豪雨による浸食で丘の斜面に溝ができていた。アクアリは丘の頂上にある建造物にたどり着き、息を整えながら、周囲を囲む驚くほど印象的な景色に夢中になった。鮮やかな緑に覆われたアイルランドの田園地帯は、エジプトのナイル川流域とはまったく異なる世界だが、ニューグレンジとピラミッドが、同じ強力なエネルギーで共鳴しているのを感じとることができた。
巨大なマウンドに近づくと、アクアリは、建造物を囲む石に謎めいた象形文字が刻まれていることに気づいた。そして、遺跡の広場で、中央の縁石を覆うこれらの記号の独特な構成に魅了された。
初心者には、これらの奇妙な彫刻は原始的な芸術や魔法のシンボルのように見えただろうが、アクアリはケム騎士団の魔法が化学であることを知っていた。彼は修行の間に、同じような記号を見たことがあり、それらが化学合成物を描写していることを理解していた。アクアリは、その意味を解読しようと、記号を注意深く研究し、イメージの配置や連鎖を評価しながら、ニューグレンジのマウンドの内部構造に当てはめていった。
彼は、縁石が、化学反応の順序を表す初歩的な方程式が刻まれた碑文によって、この建造物の操作方法を伝えていることに気づき始めた。アクアリは、この貴重な体験に興奮を隠しきれないでいた。その公式を完全に理解するには、威圧的な遺跡の中に入り、その内部を調べる必要があることをよく知っていたからだ。
先に進む前に、アクアリは、構造物の入り口の周囲にある地面のくぼみに注目し、エジプトのピラミッドの通気口のようなその構造物の目的について考えた。彼は、緊張を和らげ、入り口の上にあるまぐさ石(開口部の上の二つの垂直支柱間の空間に架けられた構造用水平梁)の下を敬虔にくぐり、内室へと続く緩やかな傾斜を慎重に登り始めた。通路を進むにつれて、入り口からの光は、大きなボールト(アーチ形の天井)のある内部のチャンバーの暗闇に消えていった。
構造物内に漂う、かび臭く湿った土の匂いは、この建造物の古さを物語っており、その匂いには、かすかながらも紛れもない金属の臭いが混ざっており、アクアリの注意をすぐに引いた。目が慣れるまでしばらく待ってから、彼は内部の構造を探索し始め、内部のチャンバーの構成を徹底的に調べているうちに、まぐさ石の高さと石造りの盆(浅く開いた鉢)の位置が一致していることに気づいた。アクアリは、その石盆の目的について考えながら、構造物の中を行き来し、通路沿いの大きな石の異常に滑らかな表面に触れ、中央のチャンバーのボールトを詳しく調べて、その機能に関する手がかりを探した。
暗い石造りのチャンバーの中でしばらく過ごした後、アクアリは日光の下に戻り、丘を下って自分のボートへと向かった。その現場では、縁石の刻印に関する彼の最初の解釈を裏付ける十分な情報を収集することができた。しかし、パズルのいくつかのピースは依然として謎のままであり、アクアリはその答えを見つけることに全力を尽くした。彼はボイン川に沿ってさらに西へ旅し、ノウスとして知られる二つ目の古代のマウンド構造物に到着した。そこでは、ニューグレンジとよく似たチャンバーを持つ、数多くの石と土でできた複雑な建造物群があり、彼は驚愕した。その地域を探索している最中、アクアリは、この聖地の守護者に任命されていたケム騎士団の修道士に出会った。修道士は、この謎めいたマウンド構造物が他にも2箇所あることを彼に教えた。
アクアリは、自分の心の中で燃え上がる疑問の答えを求めて、ためらうことなくアイルランドの田園地帯の奥深くへと足を踏み入れた。彼は、同じ石と土のマウンドの中に二つの別々の通路とチャンバーからなる、興味深い遺跡、ダウスを訪れた。この遺跡は、構造物の上部に通路の入り口に向かって傾斜した大きな窪みがあるのが特徴だ。その後、彼は旅の四番目の目的地を探して、さらに丘の奥へと進んだ。この地域で最も高い丘の頂上まで、狭く岩だらけの危険な道を登った後、アクアリはラフクルーという場所に到着したが、ニューグレンジの縁石に刻まれた謎めいた象形文字の説明については、依然として何の手がかりも得られなかった。
アクアリは、注意深くその場所を調査し、すべての場所に同じような特徴があることに気づきいた。
アイルランドの古代の石造りの通路室 passage-chambers は、すべて、低い湿原地帯に囲まれた高台の上に建設されていた。建造物の周囲や上部の窪みは、その内部通路室システムと関連しているようであり、この通路室システムは、遺跡から丘の斜面へと続く水路にもつながっていた。これらの特徴は、アクアリによるニューグレンジの縁石に刻まれた指示(説明文)の分析と一致していたが、反応物質と方法論は依然として不明のままだった。彼は、その答えのヒントを見つけることを期待して、ラフクルーの通路室に入ったが、その代わりに、三つの小さなチャンバーが両脇に並ぶ、もうひとつの空っぽの中央の石室に出くわした。
アクアリは、心を清め、説明のつかない古代の建造物とのつながりを感じるために、メインのチャンバーの中でしばらく座った。彼は深い瞑想状態に入り、深い安らぎと目的達成への決意を体験した後、アイルランドのマウンド構造物の謎を解き明かすことが自分の運命であると悟って立ち上がった。
ラフクルーの丘の頂上を離れるとき、アクアリは地面に半分埋まった岩に太陽の光が反射していることに気づいた。その小さな白鉄鉱(硫化鉱物の一種。組成は黄鉄鉱と同じ FeS2 であるが、結晶構造が異なるため、別種の鉱物に分類される)の塊を掘り起こして調べたところ、修行時代に学んだ鉱物の化学に関する、ぼんやりした言及が突然思い浮かんだ。欠けていた反応物質を発見した高揚感を胸に、アクアリは旅の最終段階への準備を始めた。地方を横断する探検旅行の途中、彼はアイルランド西海岸のスライゴを訪れ、最も古いマウンド構造物であるキャロウキールを見学した。
彼の太古の祖先は、北米の文明を破壊した大洪水から生き残った者たちで、アイルランドに到着した際にこの遺跡を建設した。その設計は、その後アイルランド全土で模倣された。アクアリは、ここが最終目的地になることを知っていたため、この建造物がどのように機能していたかを直接目撃したいと考え、アイルランドの雨季に合わせて旅のスケジュールを正確に調整していた。
アクアリがキャロウキールの谷に到着したとき、その場所の信じられないほどの美しさに圧倒された。彼は二つの丘の間の沼地を歩き、山頂にある遺跡に向かって急な坂道を慎重に登り始めた。頂上にたどり着いたアクアリは、石塚を探索し始め、それぞれの建造物の内部を這って、慎重に内部を調査した。丘の頂上にある最大の遺跡の中央のチャンバーにいると、アクアリは、建造物全体に響き渡る雷鳴と、その後に続く豪雨の音を聞いた。数分後、通路から水がチャンバー内に流れ込み、内部が浸水し始めた。アクアリは、通路に流れ込む水の中を這って進み、建造物から脱出し、予想した光景が目の前に広がる外へ飛び出した。豪雨による雨水は、丘の頂上の窪みに溜まり、水路を通って通路とチャンバーからなる構造物の中に流れ込み、そこで溜まった後、丘の斜面を流れ落ちて湿原へと流れていた。
アクアリはキャロウキールの丘の上に立ち、これらの独創的な建造物と相まって織りなす、自然の驚異的な光景に畏敬の念を抱きながら見入っていた。彼は全身ずぶぬれだったが、アイルランドの通路室マウンドの謎をようやく解明できたという素晴らしさを実感でき、その不便さをまったく気にも留めていなかった。青年は、古代の祖先たちがそうしていたように、スライゴの田園地帯の壮大なパノラマを誇らしげに眺めた。その瞬間、太陽が雲の間から顔を出し、谷を太陽の光で照らし出した。その壮大な光景に感銘を受けたアクアリは、そびえ立つ丘の頂上から降り、ニューグレンジに戻る準備をして、その場を後にした。彼は、謎めいた縁石を再訪し、自分の発見を確認しようと思ったのだ。
ミース郡に到着すると、アクアリは修道士団の上級メンバーからなる小さな部隊を集め、ニューグレンジへ同行するよう呼びかけた。この巨大な石と土の塚は、古代アイルランドの祖先たちが築き上げた最高の成果であり、エジプトのピラミッドよりも1000年以上も前に開発された化学製造施設だった。アクアリは、ついにその秘密を明らかにできることを光栄に思った。ケム騎士団の同胞たちは、遺跡の入り口を護る美しく彫刻が施された石の前に集まり、アクアリが修道士団の第六学位となる講義を始めるのを、緊張と期待に満ちた表情で聞き入った。
「ニューグレンジの縁石には、一連の記号が刻まれている。それぞれの記号は個々の化学物質を表しており、大洪水後の時代に、私たちの先祖たちが最も価値のある物質を製造するために用いた一連の化学反応を表している」
「反応の連鎖は、石の左側に刻まれた三つの四角形シンボルから始まる。これらは鉄の二硫化鉄、そうでなければ、白鉄鉱を表している。毎年の雨季の開始前に、この豊富な鉱物は細かく砕かれ、これらの構造物内の三つの小さなチャンバーにある石の盆に置かれた。縁石の下部にある波打つ線は、通路システムに水が満たされる様子を表す絵文字で、反応プロセスの第2段階を表している。
毎年豪雨の季節になると、水路が雨水を構造物内に導き、まぐさ石(古代の建築で二つの支柱の上に水平に渡されたブロックを指す)で示された水位まで内部システムが浸水した。エジプトのピラミッドと同様に、このチャンバーを浸水させるプロセスを促進するため、マウンドの周囲に貯水池が建設されていた可能性がある。反応の最終段階は、縁石に描かれた一連の螺旋で象徴されており、これは、暴風雨の際に、まぐさ石の上の通気口から内部室へと吹き込む風を表している。
二硫化鉄の堆積物は、三つの部屋からなるシステム内に循環する湿った空気によって徐々に酸化され、縁石には大きな三つの螺旋のシンボルで表現されている。二硫化鉄、酸素、水との反応が進み、二硫化鉄は硫酸鉄に変化した」
ケム騎士団の修道士(信者仲間)たちは、その神秘的な文字の巧みな説明に魅了され、畏敬の念を抱きながら、縁石をじっと見つめていた。彼らのアイルランドの祖先の失われた化学の知識が、エジプトの壮大な文明よりもさらに古い時代から復活したのである。アクアリが秘密を明かし続ける間、同胞たちは熱心に耳を傾けていた。
「化学変化は雨季の間ずっと続き、洪水のピーク時には、水は建造物内の石造りの盆(鉢)に達した。降雨量が強まるにつれて、水溶性の硫酸鉄が酸化した二硫化鉄の堆積物からろ過され、鉄イオンを豊富に含む溶液がチャンバーから押し流された。その後、その溶液は水路のシステムを通って丘陵を下り、沼地へと流れ込んだ。泥沼の酸性で低酸素の環境下では、豊富な嫌気性細菌が硫酸鉄溶液をゆっくりと不溶性の酸化鉄の堆積物に変換し、それが回収されて精錬され、金属鉄が生産された」
「鉄は私たちの先祖にとって重要な資源であり、この毎年恒例の儀式を行って鉱床を補充することで、後世の世代も沼地から鉄を豊富に採掘できることを保証していた。彼らは、白鉄鉱を直接溶かすことは有毒な二酸化硫黄(亜硫酸ガス)を放出する危険な作業だと理解していたため、大気汚染を排除しながら遠隔地で反応を分離する通路室ヒープ浸出法を開発した。通路チャンバー内で二硫化鉄が酸化すると、副生成物である硫酸が雨水に溶け込み、湿原に流れ込み、その自然に酸性の状態を維持し、好酸性菌の繁殖を助け、硫酸鉄の酸化鉄への変換率を高めた。通路チャンバー内で生成された溶液は、収集して蒸留し、濃硫酸とより純度の高い酸化鉄を製造していた可能性もある。硫酸鉄自体は、硝酸と塩酸の溶液に溶解した金を沈殿させるのに有用であり、アルカリ性土壌での植物の成長を促進するためにも利用できる。
金属鉄を製造するための原材料へのアクセス、および不適切な土壌条件を改善する技術は、最後の氷河期を終えた大災害後の時代の人々にとって極めて重要だった。ニューグレンジのような遺跡を建設することで、私たちの古代の修道士は、化学を利用して、生存の可能性を高める解決策を見出せた」
※白鉄鉱 marcasiteは、鉱物(硫化鉱物)の一種。組成は黄鉄鉱と同じ FeS2であるが、結晶構造が異なるため、別種の鉱物に分類される(同質異像)。
黄鉄鉱が高温・酸性の条件で生成されるのに対し、白鉄鉱は低温・アルカリ性の条件で生成される。主に粘土中にボール状で産出することが多い。
日本のような多湿の場所では、水分と反応して硫酸を作り、他の標本や保管容器などを侵すため、密閉保存する必要がある。
※通路室 passage-chamber:通路室は巨石建築に見られる構造で、通常は土や石で覆われたひとつ以上の埋葬室に通じる狭い通路で構成される。
これらの通路墓は新石器時代に遡り、主に西ヨーロッパで発見されており、大きな巨石と小さな石を使用して構築されている。
※ヒープ浸出法 heap leaching method:小さな塊に砕かれた鉱石から金属を抽出する工業プロセス。ヒープリーチングとは、一連の化学反応を利用して特定の鉱物を吸収し、再分離することで鉱石から貴金属、銅、ウランなどの化合物を抽出する産業採掘プロセス。
「アイルランドの最初の入植者であり、ケム騎士団の創設者たちは、エジプトのピラミッドの建設者たちと同じように、石と土でできた通路室構造と自然の力を組み合わせて利用し作業を行った。これらの卓越した建造物は、地球と調和して機能し、この二つの地域における発展する住民たちの農業および産業のニーズを支え、今日でも、これらの古代文明に広がっていた化学の力を永遠に思い起こさせる存在となっている」
アクアリが第六学位を締めくくると、ニューグレンジの敷石に集まった同胞たちは歓声と拍手で沸き立った。この建造物の機能はシンプルでエレガント、そして独創的であり、その建設者の考え方を如実に表している。アクアリは、忘れ去られていた真実を明らかにすることに成功した。その功績は、いつまでも人々の記憶に残ることだろう。
一行は遺跡を後にし、ケム騎士団の修道士たちは、アイルランドの祖先の化学を復活させ、エジプト人の方法論をさらに改良する作業に取り掛かった。アクアリは故郷に戻り、ジュリアス修道士から学んだエジプトのピラミッドに関する知識と、アイルランドの通路室構造から得た発見をすべて記録し、この貴重な知識が永遠に保存されるように熱心に作業に取り掛かった。
青年は、霧に包まれたアイルランドの田園地帯の素晴らしい景色の中で研究と執筆に没頭し、しばらくは満足した日々を過ごしたが、エジプトへの新たな旅が差し迫っていることを知っていた。彼は、修道士ジュリアスとそこで見せられた驚異についていつも考え、まだ多くのピラミッドが残っており、やり残した仕事がたくさんあることを知っていた。
化学の地で初めて体験した古代の謎と禁断の魔法の呼び声は、彼にとって非常に魅力的であり、アクアリは、自分の偉大な仕事を完了したら、再びそこに戻る運命にあることを知っていた。
──おわり
ジェフリー・ドラム氏が自身のYouTubeチャンネルで面白いと推薦していた本の前書きを紹介します。マンリー・P・ホールの邦訳は何冊か出ていますが、この本は訳されていないようです。


すべての時代の秘密の教え
The Secret Teachings Of All Ages
古代世界に存在した秘密の哲学体系について、数多くの解説書が執筆されてきたが、地球上で最も偉大な思想家たちの多くと同様、生命の永遠の真理は、通常、粗末な衣で覆い隠されてきた。本書は、そのページに彼らの思想が込められている先見の明のある賢者たちにふさわしい大著を執筆しようとしたものである。美と真実の融合を実現するには多大な犠牲を要したが、その結果は、読者の心に大きな影響を与え、その犠牲を十分に報いるものになると信じている。
この著作の執筆は、1926年1月1日に始まり、2年以上にわたってほぼ休むことなく続けられた。しかし、研究の大部分は、原稿の執筆前に実施された。参考文献の収集は1921年に始まり、3年後、本の計画が具体化した。明瞭さを期すため、すべての脚注を削除し、他の著者の引用や参照は、論理的な順序で本文中に組み込んだ。参考文献一覧は、主に、哲学と象徴主義に関する最も権威ある重要な文献を将来の研究のために選択する際に役立つように添付した。本書に含まれる難解な情報を容易に参照できるように、詳細なトピック別索引を付した。
私は、本書に含まれる記述の正確性や独創性について、いかなる主張も行っていない。私は、古代人の断片的な著作を十分に研究し、彼らの教義に関する独断的な発言は、無謀である以上のものであることを理解している。伝統主義は、現代哲学、特にヨーロッパの学派の呪いである。本書に収録された多くの主張は、最初に見たときは荒唐無稽に思えるかもしれないが、私は、無計画な形而上学的な推論を避けるよう真摯に努め、可能な限り原著者の精神ではなく文字通りに資料を提示するようにした。本書に現れる誤りについてのみ責任を負うことで、神秘哲学のテーマを扱うほぼすべての作家に向けられてきた剽窃の非難を免れることを願っている。
私は、特に広めたい思想体系を持っていないため、元の著作を捻じ曲げて既成の概念を立証しようとしたり、宗教哲学的思想体系の間に存在する調和不可能な違いを調和させるために教義を歪曲したりはしていない。
本書の全体的な理論は、現代の思考方法と正反対のものだ。なぜなら、それは20世紀のソフィストたちによって公然と嘲笑された主題を扱っているからだ。その真の目的は、読者の心に、物質主義的神学、哲学、または科学の枠組みを超えた生き方の仮説を紹介することにある。本書の表紙の間に収められた難解な資料の量は、完璧な組織化には適していないが、可能な限り関連するテーマをグループ化している。
英語は表現手段に富む言語だが、抽象的な哲学的前提を伝えるのに適した用語が不思議と不足している。したがって、不十分な言葉のグループに隠されたより深い意味を直感的に理解することが、古代の神秘教義を理解するために必要だ。
参考文献のほとんどは私の個人図書館所蔵のものだが、サンフランシスコとロサンゼルスの公立図書館、サンフランシスコとロサンゼルスのスコットランド・ライト図書館、カリフォルニア大学バークレー校とロサンゼルス校の図書館、サンフランシスコのメカニクス図書館、カリフォルニア州オハイのクロトナ神智学図書館の協力を感謝する。特に感謝の意を表したいのは、以下の皆様だ:マックス・ヘインデル夫人、アリス・パルマー・ヘンダーソン夫人、アーネスト・ドーソン氏とスタッフ、ジョン・ハウエル氏、ポール・エルダー氏、フィリップ・ワトソン・ハケット氏、ジョン・R・ルックステル氏。他の個人や団体から貸与された単行本についても、感謝の意を表する。
翻訳は、この本の作成に伴う調査作業の中で最大の作業だった。3年近くを要した必要なドイツ語翻訳は、アルフレッド・ベリ氏によって無償で快く引き受けられた。ラテン語、イタリア語、フランス語、スペイン語翻訳は、ホーマー・P・アール教授によって行われた。ヘブライ語テキストは、ラビ・ジェイコブ・M・アルコウによって編集された。その他の短い翻訳やチェックも、さまざまな人々によって行われた。
編集作業は C. B. ロウリングソン博士の監督の下で行われ、その有能な努力により、文学的な混乱から文学的な秩序がしばしば生み出されました。また、テキストを割り当てられたスペースに収めるという技術的な難題を担当した H. S. クロッカー社スタッフのロバート・B・タムモンズ氏にも、特別な感謝を捧げる。この作品の文学的な魅力の多くは、原稿全体の口述を受け、索引の作成も担当した M. M. サクストン氏のおかげでもある。イラストレーターである J. オーガスタス・ナップ氏の素晴らしい努力により、この作品の美しさと完成度をさらに高める一連のカラープレートが完成した。この本の印刷は、H. S. Crocker Company, Inc. のフレデリック・E・キース氏によって行われた。同氏は、この本に多大な関心を寄せ、その品質向上のために精力的に努力を続けてきた。アメリカ大陸で最も著名な印刷デザイナーであるジョン・ヘンリー・ナッシュ博士の多大な協力により、この本は、印刷技術の最高の要素を体現した、ユニークで適切な形で完成した。当初の予定よりも版数の増加と、より精巧な仕上がりを実現したのは、この本の制作に全身全霊を注ぎ込んだ、ロサンゼルス・エングレービング社の C. E. ベンソン氏のおかげだ。
この本の出版前の販売は、書籍の歴史上、前例のないことだった。550部の初版は、原稿が印刷所に渡される1年前に、予約がすべて埋まった。550 部の第2版(ソロモン王版)と 200部の第3版(神智学版)は、印刷所から完成品が納品される前に完売した。これほど野心的な出版物にとって、これは独自の達成である。この非凡な販売プログラムの功績は、本書を商業的な意味での販売ではなく、その内容に特に興味を持つ人々の手に届けることを理想としたマウド・F・ガリガー夫人にある。この点において、私の講演を聴講した多くの友人たちが無償で本の配布を引き受け、成功裡に遂行したことも、貴重な支援となった。
最後に、著者は、このフォリオの出版を可能にした数百人の購読者の皆様の事前支払いに対し、心より感謝の意を表したい。この莫大な費用を負担することは、著者の個人では到底不可能であり、本書に投資した方々は、その生産の保証も、著者の誠実さ以外の何の保証もなかった。
この本の読者の皆様が、この本の読了から利益を得られることを心から願っている。この作品に費やした年月と思考は、私にとって大きな意味を持っている。研究を通じて多くの真実を発見し、執筆を通じて秩序と忍耐の法則を学び、印刷を通じて芸術と工芸の新たな不思議を学んだ。そして、この事業全体を通じて、そうでなければ決して出会うことのできなかった多くの友人を得ることができた。したがって、ジョン・バニヤンの言葉に倣って:
私はそれを書き留め、ついに完成させた。その長さ、広さ、大きさ、あなたが目にするその姿だ。
マンリー・P・ホール。
カリフォルニア州ロサンゼルス 1928年5月28日
著者について
マンリー・パルマー・ホール(1901年3月18日 – 1990年8月29日)は、カナダ生まれの作家で神秘主義者。彼は、1928年に27歳で出版した『すべての時代の秘密の教え:フリーメイソン、ヘルメティック、カバラ、ロジクルシアンの象徴的哲学の百科事典的概要』で最もよく知られている。
1953年にサンフランシスコのフリーメイソン研究グループの騎士団長に任命されたが、1954年11月22日にサンフランシスコのジュエル・ロッジ第374号で正式にフリーメイソンに叙任された。その後、サンフランシスコ・バレーのAASR(SJ)で32度を授与された。1973年(『すべての時代の秘密の教義』執筆から47年後)、ホールは1973年12月8日にPRSで開催された式典で、スコットランド・ライト最高評議会から授与される最高位の33°フリーメイソンとして認定された。
70年を超えるキャリアにおいて、ホールはアメリカ合衆国と海外でおよそ8,000回の講演を行い、150冊を超える書籍とエッセイを執筆し、数多くの雑誌記事を書いた。
1934年、ホールはカリフォルニア州ロサンゼルスに、宗教、神話、形而上学、オカルトの研究を目的とする非営利財団「フィロソフィカル・リサーチ・ソサエティ(PRS)」を設立した。PRSは50,000冊を超える研究図書館を保有し、主にホールの著作を含む形而上学や精神世界に関する書籍の出版と販売も行っている。

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