エアフォースワンでの怖れと嫌悪──シーモア・ハーシュ

シーモア・ハーシュの「FEAR AND LOATHING ON AIR FORCE ONE」の記事の翻訳です。普通に訳せば「エアフォースワンの恐怖と嫌悪」ということになります。しかし、どうもしっくりきません。サブタイトルは「Biden’s anxieties over the Ukraine War and the election in 2024 come into view」で、これは「ウクライナ戦争と2024年選挙をめぐるバイデンの不安が浮かび上がる」で、これはこれでいいでしょう。

この記事の中で、シーモア・ハーシュは「ワシントン・ポスト紙やニューヨーク・タイムズ紙の注意深い読者は、現在のウクライナ反攻作戦がうまくいっていないことを察知している」と言い「ウクライナの重要な成功が現時点では不可能であることだと私は聞いている」と言います。さらに「本当に心配なのは、この夏の終わり、おそらく早ければ8月、ウクライナの攻撃を難なく切り抜けたロシア軍が、大規模な攻撃で反撃に転じるときだろう、と彼は言う」と指摘しています。

つまり、メディア報道などで伝えられているウクライナ優勢という見解はただの「張り子の虎」で、既に戦況は「詰んでいる」と言うことです。ウクライナの反抗作戦は中止され、二度目のクリミア大橋に対する破壊工作に見られるように、ウクライナは派手な「戦果」だけを狙ったゲリラ的なテロ攻撃を仕掛けるしかない状況に追い込まれています。ウクライナ軍といっても、主力はほぼ壊滅し、不幸な一夜漬けの動員兵が前線に駆り出されている状況です。一方、ウクライナ指導層とその家族は海外に別荘や豪邸を買って贅沢三昧です。

ハーシュは、ある諜報部員から「バイデンの国家安全保障官僚機構全体が流動的であることを謎めいた言葉で私に告げた」として、次のように書いています。
「大混乱。大きな権力闘争。バイデンは気づいていない。瀕死の政権のパン屑を奪い合うアリたち」

それで題名の話の戻ると(いろいろ考えたのですが、よくわからない)タイトルの「エアフォースワン」は「バイデンの国家安全保障官僚機構全体」だとすると、官僚機構全体が揺れ動いており「恐怖と嫌悪」は、よくないことが起こる可能性、恐れ。そして、彼らのロシアとプーチンへの憎しみとも言える強い嫌悪のことかなと思います。どちらにしても破壊か自滅を招きます。

エアフォースワンでの怖れと嫌悪

FEAR AND LOATHING ON AIR FORCE ONE
Biden’s anxieties over the Ukraine War and the election in 2024 come into view
SEYMOUR HERSH
JUL 13
エアフォースワンでの怖れと嫌悪
ウクライナ戦争と2024年選挙をめぐるバイデンの不安が浮かび上がる
シーモア・ハーシュ
7月13日

7月12日にリトアニアのビリニュスで開催されたNATO首脳会議

7月12日、リトアニアのヴィリニュスで開催されたNATO首脳会議で、リトアニアのギタナス・ナセダ大統領の隣で、左からスペインのペドロ・サンチェス首相、イギリスのリシ・スナク首相、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領、ジョー・バイデン米大統領、イタリアのジョルジア・メローニ首相、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長と握手するウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領。/ 写真:Paul Ellis, Pool/Getty Images.

まずは、2024年の大統領選挙に対する民主党のパニック感の高まりを示す、くだらない恐怖から始めよう。
トランプが共和党候補となり、ロバート・F・ケネディ・ジュニアを副大統領候補に選ぶかもしれない。この奇妙なコンビは、つまずいたジョー・バイデンに大勝する、 そして、党の下院・上院候補の多くを倒すだろう。

民主党の深刻な不安の兆候について:今週のNATOサミットの前に、ジョー・バイデンはトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領をどうにか翻らせ、スウェーデンのNATO加盟を支持すると発表して、プーチン大統領に反抗させることで、必要なものを手に入れた。バイデンの面子を保つ一撃は、アメリカのF-16戦闘爆撃機をトルコに売却することに同意するという話だった。

エルドアンの変節については、私は別の秘密の話を聞かされている。バイデンは、国際通貨基金(IMF)がトルコに110億ドルから130億ドルの融資枠を提供することを約束した。「バイデンは勝利しなければならなかったし、トルコは深刻な財政難に陥っている」と、この取引に直接詳しい関係者は私に語った。トルコは昨年2月の地震で10万人を失い、400万棟の建物を再建しなければならない。
バイデンの後見の下で「エルドアンがようやく光明を見いだし、NATOや西ヨーロッパと一緒にいた方が良いことに気づくことより良いことがあるだろうか?」と当局者は尋ねた。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、バイデンは日曜日にヨーロッパに飛んでいる間にエルドアンに電話したと記者は聞いている。バイデンが一撃を加えることで、プーチンは「彼が望まなかったもの、つまり拡大され、より直接的なNATO同盟」を手に入れたと言うことができる、とタイムズ紙は報じた。贈収賄についての言及はなかった。

外交問題評議会のブラッド・W・セッツァーによる6月の分析「トルコのバランスシートリスクの増大」は、最初の二文ですべてを語っている。──エルドアンは再選に勝利し「今、差し迫った財政危機を回避する方法を見つけなければならない」
セッツァーは、トルコが「使用可能な外貨準備高を本当に使い果たすかどうかの瀬戸際にあり、金塊の売却、回避可能なデフォルト、あるいは政策の完全な撤回と IMFプログラムの可能性という苦い薬を飲み込むかの選択に直面している」と書いている。

トルコが直面している複雑な経済問題のもうひとつの重要な要素は、トルコの銀行が「万が一、トルコ国民がその資金を返せと言った場合、トルコ国内のドル預金に応じることはできない」という中央銀行に多額の資金を貸し付けていることである。
ロシアにとって皮肉であり、クレムリンの怒りの原因でもあるのは、プーチンがエルドアンにロシアのガスを信用供与し、国営ガス輸入業者に支払いを要求していないという噂である、とセッツァーは指摘する。プーチンの大盤振る舞いは、エルドアンが対ロシア戦争で使用する無人機をウクライナに売却していることからもわかる。トルコはまた、ウクライナが黒海を通じて農作物を出荷することを許可している。

ヨーロッパの政治的、経済的な二重取引は、すべて公然と、目に見えるところで行われていた。アメリカでは、二枚舌はまるで違う。

ワシントン・ポスト紙やニューヨーク・タイムズ紙の注意深い読者は、現在のウクライナ反攻作戦がうまくいっていないことを察知している。というのは、ここ数週間、ウクライナ反攻の進捗状況やその欠如に関する記事が一面からほとんど消えているからだ。

先週、バイデンの国家安全保障アドバイザーであるジェイク・サリバンは、数人のジャーナリストを呼んで、プーチンがワーグナー民兵のリーダーであるエフゲニー・プリゴジンと揉めているのは武装反乱であり、ロシアのリーダーの軍の指揮統制の弱さを示していると主張した。
そのような主張には証拠がない。それどころか、プリゴジンが内部崩壊し、多くの傭兵がロシア軍に吸収された後、プーチンはこれまで以上に強くなったと、私は、後に現在の情報にアクセスできる人々から聞いた。

サリバンはまた、バイデン政権がロシアの核攻撃の脅威によって麻痺しており、ウクライナを全面的に支援することはないだろうという考え──彼はどうやら、その由来を言わなかったようだ──にも異議を唱えている。そのような考えは「ナンセンス」だと彼は言い、バイデン政権が最近、ウクライナ軍にクラスター爆弾を提供するという決定を下して物議をかもしたことを引き合いに出した。
バイデンは、対人兵器であるクラスター爆弾は、ひとつの爆弾が数百の爆弾粒をばら撒くことができるため、ウクライナが戦争で優位に立ち、プーチンに核兵器の配備を促す可能性があると示唆した。
「これは現実的な脅威だ」サリバンは核爆弾について語った。「そして、それは現地の状況の変化とともに進化するものだ」

このような粗野で回りくどい考え方の唯一の朗報は、ウクライナの重要な成功が現時点では不可能であることだと私は聞いている。
「この戦争におけるバイデンの最大の問題は、自分がしくじったことだ」その関係者は私に言った。
「戦争の初期にはウクライナにクラスター爆弾は与えなかったが、今はクラスター爆弾を与えている。子供を殺すから世界中で禁止されている爆弾ではないのか? しかしウクライナ側は、民間人に投下するつもりはないと言っている。そして政権は、ロシアが戦争で最初に使用したと主張しているが、これはただの嘘だ

「いずれにせよ、クラスター爆弾が戦争の流れを変える可能性はゼロだ」と当局者は語った。
本当に心配なのは、この夏の終わり、おそらく早ければ8月、ウクライナの攻撃を難なく切り抜けたロシア軍が、大規模な攻撃で反撃に転じるときだろう、と彼は言う。
その時何が起こるか? 米国はNATOに何かをするよう求めることで、自らを窮地に追い込んでいる。NATOは、ポーランドとルーマニアで訓練中の旅団を空挺部隊として派遣することで対応するのだろうか? 我々は、第二次世界大戦のノルマンディーにおけるドイツ軍について、ウクライナにおけるロシア軍について知っている以上に知っていた。

バイデン政権内部のストレスの兆候は他にもあると聞いている。
ヴィクトリア・ヌーランド国務次官(政策担当)は、尊敬するウェンディ・シャーマン国務副長官の後任として昇格することを──ある民主党関係者の言葉だが──"阻止"されている。
ヌーランドの反ロシア政治とレトリックは、バイデンやトニー・ブリンケン国務長官の論調や視点と一致する。そして、アメリカ情報機関の上層部に新たに加わったビル・バーンズCIA長官は、7月1日のイギリスでの演説で、バイデンへの愛着と、プーチンを含むあらゆるロシアへの激しい嫌悪を吹聴した。

ジョージ・W・ブッシュ政権下で駐ロシア大使を務め、オバマ政権下では国務副長官も務めた外交官歴の長いバーンズは、ロシアからドイツにつながるノルドスチームⅠとⅡのパイプラインを破壊するため、バイデンが承認した9カ月にわたる極秘作戦の計画と実行を慎重に処理したことで、CIAの幹部や諜報員の強硬派から尊敬を集めていた。彼はノルウェーで活動する諜報チームと大統領執務室との連絡役だった。どのくらい知る必要があるかと尋ねられたとき、彼は「ほとんど知らない」というCIAの答えを落ち着き払って受け入れた。

バーンズはまた、大使退任後に回顧録で発表した、NATOの東方への拡張を続ければ──NATOは現在、ロシアの西側国境を完全に覆い尽くそうとしているが──紛争は避けられないという警告でも知られている。

バーンズが英国で語ったのは、このニュアンス、つまりプーチンはここまでしか追い詰められないという考え方だった。
「私が学んだことのひとつは、プーチンがウクライナの支配とその選択に執着していることを過小評価するのは常に間違いだということだ。プーチンの戦争はすでにロシアにとって戦略的失敗となっている。軍事的弱点が露呈し、経済は今後何年にもわたって大きなダメージを受け、中国のジュニアパートナーとして、また経済植民地としての将来がプーチンの過ちによって形作られ、大きく強くなるばかりのNATOによって、その失地回復論者(報復主義者)的野望は鈍化している」と彼は言った。

多くの大統領がそうであったように、CIA全体から尊敬されていないバイデンは、スピーチの中で何度も引き合いに出された。その高名な諜報部員は、バーンズの熱烈な言葉を説明するために、バイデンの国家安全保障官僚機構全体が流動的であることを謎めいた言葉で私に告げた。
「そう、そう」と彼はメッセージ内で語った。
「大混乱(言い逃れ、ごまかし)。大きな権力闘争。バイデンは気づいていない(忘れっぽい)
瀕死の政権のパン屑を奪い合うアリたち。
内部にいるすべての専門家に、適所に避難するよう助言した。
バチカン公邸からの煙の色を見てからだ。
英国でのバーンズのクールエイド Kool-Aid(垂れ流す情報、教祖が飲めと言えば毒入りでも飲む=無批判に受け入れる)発言について説明せよ」

私は、バーンズのスピーチは本質的に、将来の政府における、あるいは目下の政府における、国務長官への求職の申し込みだったと聞いた。
「彼は自分の能力と経験を示した」とその当局者は言った。
「彼は諜報部にいる間に、プロフェッショナルとして駄目になることを悟った。彼はひどかったが、」─つまり、経験不足─「それが部下たちの評判を悪くしていることに気づき、それから正しいことをした」
バーンズにとって重要な問題は、CIAの何人かが見ていたように、野心だったと私は聞いた。
「ひとたび国務長官になれば、世界はあなたの思いのままだ」

この役人は「CIAの運営はそれほど大したことではない」と発言した。彼は、ジミー・カーター大統領によって1977年にCIA長官に任命された元海軍提督、スタンスフィールド・ターナーの例を挙げた。ターナーとカーターは海軍士官候補生で一緒だった。引退後、ターナーは結局(揚げ句の果てに)外洋クルーズでスピーチをするようになった。

──おわり

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
@kiyo18383090

Posted by kiyo.I