アメリカはいかにしてノルドストリーム・パイプラインを破壊したのか?
西側はいかにして自らを破壊するのか?
伝説的なアメリカのジャーナリスト、シーモア・ハーシュ氏がサブスタックに投稿した暴露記事が話題を呼んでいます。昨年9月のノルドストリームのパイプラインの破壊はアメリカとノルウェーの共同作戦によるものだという衝撃的な内容です。今回の記事はその記事の全訳です。
バイデン政権は、ピューリッツァー賞受賞者のシーモア・ハーシュ氏の、昨年のロシアのノルドストリーム1と2の破壊工作の背後に米国が存在するとの主張について、このベテラン調査ジャーナリストによる報道は「全くの虚構であり、完全なフィクションだ」と非難しました。いつものアメリカの言い逃れです。否定するなら確固とした証拠を出せばいいだけの話です。もともと、ロシアを抜きに”事故”の調査をしていたのですから。
もしこれがロシアではなくアメリカの持ち物で、それが破壊されたとしたら、アメリカはどう対応したでしょうか? どこかの国がやったといって、メディアを総動員して煽り、メディアが協力し、戦争を仕掛けたのではありませんか? あの 9.11のように。その結果、イラク、アフガニスタン、リビアという国が破壊されました。西側諸国は戦争を仕掛け破壊するのは熱心でも、トルコとシリアの大地震による大災害に対しては驚くほど冷淡です。
さて、シーモア・ハーシュ氏の「アメリカはいかにしてノルドストリーム・パイプラインを破壊したのか?」という記事ですが、推理小説か映画を見ているような臨場感を感じました。さすがです。
その後、数回の会合を重ね、攻撃方法について議論した。
海軍は、新しく就役した潜水艦でパイプラインを直接攻撃することを提案した。
空軍は、遠隔操作で作動する遅延信管付きの爆弾の投下を検討した。
CIAは、何をするにしても、秘密裏に行わなければならないと主張した。
関係者の誰もが、その利害関係(危険の度合い)を理解していた。
「これは子供だましではない」とその情報源は言った。
もし、その攻撃が米国につながるものであれば「戦争行為になる」と。
NATOの事務総長、ストルテンベルグはノルウェーの首相を務めた人でもありますが、この記事を読んで、ひとつ疑問が浮かびました。ノルウェーは自国の利益のためにドイツ、ヨーロッパを売ったのでしょうか?
なぜ、バイデン政権、EU、NATO諸国は自国の庶民を犠牲にしてまでロシアと敵対するのでしょうか?
そこには、共産主義イデオロギーというよりは、ナチ・イデオロギーが深く関係しているように思えます。なぜなら、特定の集団、民族が優れていて、他は生きるに値しないという思想は、ひとつの国の中では庶民をないがしろにし、エリートが支配して当然、世界規模では「遅れた」アジア、アフリカ、南アメリカを踏みつけにするという傲慢さと非人間性が、ナチズムという思想に象徴されているからです。その先鋭化した現象がウクライナのネオナチのロシア兵やロシア系住民に対する、言葉では言い表されない蛮行です。
これは、日本でも同じです。統一教会に操られる自民党、この議員たちが日本という国を運営しています。この人たちを選んだのは誰ですか? 二大宗教団体というカルトですよ。このカルトとナチスは似ていませんか?
他者、気にくわない人、気にくわない国、気にくわない民族、気にくわない集団は敵、仮想敵だという思い込みです。エリート、エリートに従う人々だけが生き残る権利があるという傲慢です。メディアはそれを助長する装置です。
アメリカはいかにしてノルドストリーム・パイプラインを破壊したのか?
How America Took Out The Nord Stream Pipeline
The New York Times called it a “mystery,” but the United States executed a covert sea operation that was kept secret—until now
Seymour Hersh
「アメリカはいかにしてノルドストリーム・パイプラインを破壊したのか?」
ニューヨーク・タイムズ紙は"ミステリー"と呼んだが、米国は今まで秘密にされていた海上作戦を実行した。
シーモア・ハーシュ 2月8日
アメリカ海軍のダイビング&サルベージセンターは、その名前と同じくらいわかりにくい場所、パナマシティの田舎道を下ったところにある。アラバマ州との州境から南へ70マイルのところにあるフロリダ州南西部のパンハンドルは、いまや活気あふれるリゾート都市である。第二次世界大戦後に建てられたコンクリート造りの無骨な建物は、シカゴの西部にある職業高校のような外観をしている。コインランドリーとダンススクールが、今は4車線の道路を挟んで建っている。
このセンターは何十年もの間、高度な技術を持つ深海ダイバーを養成してきた。かつて世界中の米軍部隊に配属され、C4爆薬を使用して港や海岸の瓦礫や不発弾を除去するという善い行いも、外国の石油掘削施設を爆破する、海底発電所の吸気バルブを汚染する、重要な輸送運河の水門を破壊するなどの悪い行いを行うテクニカルダイビングも可能である。パナマシティのセンターは、アメリカで2番目に大きい屋内プールを誇り、昨年の夏、バルト海の水面下260フィート(79m)で任務を遂行した潜水学校の優秀で最も寡黙な卒業生を採用するには最適の場所だった。
昨年6月、海軍の潜水士たちは、BALTOPS 22として広く知られる真夏のNATO演習を隠れ蓑にして、遠隔操作で爆発物を仕掛け、3カ月後に4つのノルドストリーム・パイプラインのうち3つを破壊したと、作戦計画を直接知る情報筋は述べている。
そのうちの2つのパイプラインは、ノルドストリーム1として総称され、10年以上にわたってドイツと西ヨーロッパの多くに安価なロシアの天然ガスを供給していた。もうひとつのパイプラインはノルドストリーム2と呼ばれ、すでに建設されていたが、まだ稼働していない。ウクライナ国境にロシア軍が集結し、1945年以来ヨーロッパで最も血生臭い戦争が迫っている今、ジョセフ・バイデン大統領は、パイプラインがプーチン大統領の政治的・領土的野心のために天然ガスを武器化する手段であると考えたのである。
コメントを求められたホワイトハウスのエイドリアン・ワトソン報道官は、電子メールで「これは虚偽であり、完全なフィクションである」と述べた。中央情報局(CIA)の報道官タミー・ソープも同様に「この主張は全くもって虚偽である」と書いている。
バイデンがパイプラインを破壊するという決定を下したのは、その目標を達成する最善の方法について、ワシントンの国家安全保障コミュニティ内部で9ヶ月以上にわたって極秘に行われた前後の議論の後だった。その期間の大半は、その作戦を実行するかどうかではなく、誰が責任を負うのかについて明白な痕跡なしで、どのようにそれを実行に移すかが問題だった。
パナマシティにある同センターの筋金入りダイビングスクールの卒業生に頼ったのは、官僚的な理由があった。このダイバーたちは海軍だけで、秘密作戦を議会に報告し、上院と下院の指導部、いわゆるギャング・オブ・エイトに事前に説明しなければならないアメリカの特殊作戦司令部のメンバーではない。バイデン政権は、2021年の終わりから2022年の最初の数カ月にかけて計画が行われたため、リークを避けるためにあらゆる手段を講じていた。
※ギャング・オブ・エイト(Gang of Eight)とは、米国議会内で、行政府から機密情報についてのブリーフィングを受ける8人の指導者の集合を指す俗称である。具体的には、上院と下院の各党首、および合衆国法律集第50編第3093条(c)に規定されている上院委員会と下院委員会の情報担当委員長および上位少数派の委員がギャング・オブ・エイトに含まれる。
バイデン大統領とその外交チーム(国家安全保障顧問ジェイク・サリバン、国務長官トニー・ブリンケン、国務次官ビクトリア・ヌーランド)は、ロシア北東部のエストニア国境に近い2つの港からバルト海下750マイル(1,207km)を並走し、デンマーク領ボーンホルム島近くを経てドイツ北部に至る2つのパイプラインを声高に、そして一貫して敵視していた。
ウクライナを経由しない直接ルートは、ドイツ経済にとって好都合だった。工場を稼働させ、家を暖めるのに十分な量の安いロシアの天然ガスが豊富にあり、ドイツの流通業者が余ったガスを西ヨーロッパ全域に利益として販売できるようになるからだ。政権にたどり着くような行動は、ロシアとの直接的な衝突を最小限に抑えるという米国の約束に反することになる。そのためには秘密が必要だった。
ノルドストリーム1は、その初期段階から、ワシントンと反ロシアのNATOパートナーによって、西側の支配に対する脅威と見なされていた。その背後にある持株会社 Nord Stream AG は、2005年にスイスでガスプロムと提携して設立された。ガスプロムは、株主に莫大な利益をもたらすロシアの上場企業で、プーチンの支配下として知られるオリガルヒが支配している。ガスプロムが51%、フランスのエネルギー企業4社、オランダのエネルギー企業1社、ドイツのエネルギー企業2社が残りの49%の株式を共有し、安価な天然ガスをドイツや西欧の地元流通業者に販売する下流工程をコントロールする権利を持っていた。ガスプロムの利益はロシア政府と共有され、国家のガス・石油収入はロシアの年間予算の45%にも上ると推定された年もある。
アメリカの政治的な懸念は現実のものとなった。プーチンは必要な収入源を手に入れ、ドイツをはじめとする西ヨーロッパはロシアから供給される安価な天然ガスに依存するようになり、ヨーロッパのアメリカへの依存度は低下してしまうからだ。実際、そのとおりになった。
多くのドイツ人は、ノルドストリーム1を、ウィリー・ブラント元首相の有名なオストポリティーク理論の実現につながるものだと考えていた。それは、戦後のドイツが、第二次世界大戦で破壊された自国や他のヨーロッパ諸国を、ロシアの安価なガスを利用して豊かな西ヨーロッパ市場や貿易経済の燃料として活用することなどで復興させるというものであった。
※オストポリティーク(ドイツ語:Ostpolitik:東方政策)1960年代後半に始まった西ドイツの外交政策。ウィリー・ブラントが外相、首相として主導し、ソ連圏諸国とのデタント政策、東ドイツ政府の承認、他のソ連圏諸国との通商関係の拡大などを行った。1970年にはソ連との間で武力行使を放棄する条約、ポーランドとの間で1945年のオーデル・ナイセ線以東におけるドイツの敗戦を認める条約が結ばれている。この政策は、ヘルムート・シュミット首相によって継続された。
ノルドストリーム1は、NATOやワシントンから見て十分に危険なものだったが、2021年9月に建設が完了したノルドストリーム2は、ドイツの規制当局が承認すれば、ドイツと西ヨーロッパで利用できる安価なガスの量が2倍になる。また、このパイプラインはドイツの年間消費量の50%以上を賄うことができる。バイデン政権の好戦的な外交政策を背景に、ロシアとNATOの緊張は常に高まっていた。
2021年1月のバイデン就任式前夜、ブリンケンの国務長官就任承認公聴会で、テキサス州のテッド・クルーズ率いる上院共和党が安価なロシア天然ガスの政治的脅威を繰り返し提起し、ノルドストリーム2への反対運動が燃え上がった。そのころには、まとまった上院は、クルーズがブリンケンに語ったように「(パイプラインの)途中で停止させる」法律を成立させることに成功していた。当時、メルケル首相が率いていたドイツ政府からは、2本目のパイプラインを稼働させるために、政治的にも経済的にも大きなプレッシャーがかかっていた。
バイデンはドイツに立ち向かうことができるだろうか? ブリンケンはイエスと答えたが、次期大統領の見解の詳細については話していないと付け加えた。
「私は、ノルドストリーム2というのは悪い考えだという彼の強い信念を知っている」と彼は言った。
「彼は、ドイツを含む我々の友人やパートナーに、これを進めないよう、あらゆる説得手段を用いるよう我々に求めていることは知っている」
数ヵ月後、2本目のパイプラインの建設が完了に近づくと、バイデンは目をつぶった。その年の5月には、国務省の高官が、制裁と外交でパイプラインを止めようとするのは「常に長丁場だ」と認め、驚くべき方向転換で、政権は Nord Stream AG に対する制裁を免除した。その裏では、当時ロシアの侵略の脅威にさらされていたウクライナのゼレンスキー大統領に、この動きを批判しないようにと、政権幹部が働きかけていたとも言われている。
しかし、その結果はすぐさま現れた。クルーズ率いる上院共和党は、バイデンの外交政策候補者全員を直ちにブロックすると発表し、年次国防法案の成立を数カ月、晩秋まで遅らせた。後にポリティコは、ロシアの第2パイプラインに関するバイデンの転向を「この決定は、アフガニスタンからの無秩序な軍事撤退以上に、バイデンのアジェンダを危うくするものであることは間違いない」と描写している。
11月中旬、ドイツのエネルギー規制当局が第2パイプライン、ノルドストリームの認可を停止したことで、危機の猶予を得たものの政権は低迷していた。パイプラインの停止とロシアとウクライナの戦争の可能性が高まっていることから、ドイツとヨーロッパでは非常に望まない寒い冬になるのではないかという懸念が高まり、天然ガス価格は数日で8%も急騰した。ドイツの新首相に就任したオラフ・ショルツの立ち位置は、ワシントンでは明確ではなかった。その数ヶ月前、アフガニスタン崩壊後、ショルツはプラハでの演説で、エマニュエル・マクロン仏大統領の、より自律的な欧州外交政策の呼びかけを公に支持し、明らかにワシントンやその気まぐれな行動への依存を減らすことを示唆した。
この間、ロシア軍はウクライナとの国境に着々と、そして不気味に兵力を増強しており、12月末には10万人以上の兵士がベラルーシとクリミアから攻撃できる態勢にあった。ワシントンでは、この兵力は「すぐにでも倍増する」というブリンケンの評価もあり、警戒が強まっていた。
このとき、政権が注目したのは、再びノルドストリームであった。ヨーロッパが安価な天然ガスのパイプラインに依存し続ける限り、ドイツなどの国々は、ウクライナにロシアに対抗するための資金や武器を供給することをためらうだろうと、ワシントンは考えていたのだ。
バイデンは、このような不安定な状況下で、ジェイク・サリバンに省庁間のグループを結成し、計画を練ることを許可した。
すべての選択肢がテーブルの上に置かれることになった。しかし、浮かび上がるのはひとつだけだった。
プランニング PLANNING
2021年12月、ロシアの戦車が初めてウクライナに進入する2カ月前、ジェイク・サリバンは、統合参謀本部、CIA、国務省、財務省などからメンバーを集め、新たに結成したタスクフォースの会議を開き、プーチンの侵攻にどう対処するかについて提言を求めた。
ホワイトハウスに隣接する旧執行部庁舎の最上階、大統領の対外情報諮問委員会(PFIAB)のある安全な部屋で、一連の極秘会議の最初の会合が開かれることになった。このグループが大統領に提出する勧告は、制裁措置や通貨規制の強化といった"可逆的"なものなのか、それとも"不可逆的"なものなのか、つまり、取り返しのつかないような武力行使が必要なのか、ということである。
このプロセスを直接知る情報源によれば、サリバンの意図は、グループが2本のノルドストリーム・パイプラインを破壊する計画を打ち出し、大統領の要望を実現することであったことが参加者に明らかになった。
その後、数回の会合を重ね、攻撃方法について議論した。海軍は、新しく就役した潜水艦でパイプラインを直接攻撃することを提案した。空軍は、遠隔操作で作動する遅延信管付きの爆弾の投下を検討した。CIAは、何をするにしても、秘密裏に行わなければならないと主張した。関係者の誰もが、その利害関係(危険の度合い)を理解していた。「これは子供だましではない」とその情報源は言った。もし、その攻撃が米国につながるものであれば「戦争行為になる」と。
当時のCIAは、温厚な元駐ロシア大使で、オバマ政権で国務副長官を務めたウィリアム・バーンズが長官を務めていた。バーンズはすぐに、偶然にもパナマシティにいる海軍の深海ダイバーの能力をよく知っている人物を特別メンバーに含む、CIAのワーキンググループを承認した。それから数週間、CIAのワーキンググループのメンバーは、深海ダイバーを使ってパイプラインを爆発させるという秘密作戦の計画を練り始めた。
このようなことは、以前にもあった。1971年、アメリカの情報機関は、ロシア海軍の2つの重要な部隊が、ロシア極東オホーツク海に埋設された海底ケーブルを介して通信していることを、まだ未公表の情報源から知った。このケーブルは、海軍の地方司令部とウラジオストクにある本土の司令部を結んでいた。
中央情報局と国家安全保障局の選りすぐりの諜報員が、ワシントン地域のどこかで極秘裏に集められ、海軍のダイバー、改造潜水艦、深海救助艇を使って、試行錯誤の末にロシアのケーブルの位置を特定する計画に成功した。ダイバーはケーブルに高性能の盗聴器を仕掛け、ロシアの通信を傍受してテープに記録することに成功した。
NSAは、ロシア海軍の幹部が通信回線の安全性を確信し、暗号化せずに仲間とおしゃべりしていることを知った。録音機とテープは毎月交換する必要があり、このプロジェクトは10年間順調に進んでいた。しかし、ロシア語に堪能な44歳のNSA技術者ロナルド・ペルトンによって、その情報が漏洩した。ペルトンは、1985年にロシアの亡命者に裏切られ刑務所に送られた。ペルトンがロシアから受け取った報酬は、作戦を暴露した5000ドルと、公開されなかった他のロシアの作戦データに対する3万5000ドルだった。
コードネーム"アイビー・ベル(冷戦中にソ連の水中通信回線に盗聴器を設置することを目的とした、米国海軍、中央情報局、および国家安全保障局の共同任務)"と呼ばれたこの水中での成功は、革新的で危険なものであり、ロシア海軍の意図と計画に関する貴重な情報をもたらした。
しかし、CIAの秘密の深海攻撃への熱意には、当初、省庁間グループも懐疑的だった。あまりにも未解決の問題が多かったからだ。バルト海はロシア海軍の警備が厳重で、潜水作戦に使える石油掘削施設はない。ダイバーは、ロシアの天然ガス積み出し基地と国境を接するエストニアまで行って、訓練しなければならないのだろうか。「そんなことしたら、大混乱の手に負えない状態になる」とCIAは言われた。
「この謀略の全て」を通して、情報源は言った。「CIAと国務省のある職員はこう言っていた。『こんなことはするな。バカバカしいし、表に出れば政治的な悪夢になる』」と。
それにもかかわらず2022年初頭、CIAのワーキンググループはサリヴァンの省庁間グループに報告した。「パイプラインを爆破する方法がある」と。
その後に起こったことは、驚くべきことだった。ロシアのウクライナ侵攻が避けられないと思われた2月7日、バイデンはホワイトハウスの事務所でドイツのオラフ・ショルツ首相と会談し、その後しばらく動揺していたが、今ではしっかりとアメリカ側についている。そのあとの記者会見で、バイデンは挑戦的にこう言った。
「もしロシアが攻めてきたら……ノルドストリーム2はなくなる。我々はそれに終止符を打つ」
その20日前、ヌーランド次官も国務省のブリーフィングで、ほとんど報道されることなく、本質的に同じメッセージを発していた。
「今日、はっきりさせておきたいことがある」と彼女は質問に答えて言った。
「もしロシアがウクライナに侵攻すれば、いずれにせよノルドストリーム2は前進しないでしょう」
パイプライン作戦の計画に携わった何人かは、攻撃への間接的な言及と見られるものに狼狽していた。
「東京に原爆を置いて、それを爆発させると日本人に言っているようなものだ」と、その情報源は言った。
「計画では、オプションは侵攻後に実行されることになっており、公には通知されないことになっていた。バイデンは単にそれを理解しなかったか、無視したのだ」
バイデンとヌーランドの軽率な行動は、それが何であったとしても、計画者の何人かを苛立たせたかもしれない。しかし、それはまた好機でもあった。この情報源によると、CIAの高官の何人かは、パイプラインの爆破を「大統領がその方法を知っていると発表したので、もはや秘密のオプションとは見なされない」と判断したそうだ。
ノルドストリーム1と2を爆破する計画は、議会に報告する必要のある極秘作戦から、米軍の支援を受ける極秘情報作戦と見なされるものに突然格下げされた。この法律の下では「議会に報告する法的義務がなくなった。
今、彼らがしなければならないのは、ただそれを行うことだけだ。──しかし、それはまだ秘密でなければならない。ロシアはバルト海で最高の監視をしている」と情報源は説明した。
ホワイトハウスと直接のコンタクトがないCIAのワーキンググループのメンバーは、大統領が言ったことが本心かどうか、つまりミッションがゴーになったかどうかを確かめようと躍起になっていた。情報源は「ビル・バーンズが戻ってきて〝やれ“と言った」と回想している。
作戦 THE OPERATION
ノルウェーは、この作戦の拠点として最適の場所だった。
東西の危機が叫ばれているここ数年、米軍はノルウェー国内でそのプレゼンスを大幅に拡大してきた。ノルウェーの西側国境は北大西洋に沿って1,400マイル(2,253km)も続き、北極圏の上でロシアと合流する。国防総省は、ノルウェーにあるアメリカ海軍と空軍の施設を改良・拡張するために何億ドルも投資し、地元で論争が起こる中、高給の雇用と契約を生み出してきた。この新しい施設には、最も重要なこととして、ロシアを深く探知できる高度な合成開口レーダーが含まれており、ちょうどアメリカの情報機関が中国国内の一連の長距離通信傍受施設へのアクセスを失ったときに稼働した。
長年にわたって建設が進められてきたアメリカの潜水艦基地が新たに改修され、運用が開始された。さらに多くのアメリカの潜水艦がノルウェーと緊密に連携し、250マイル(402km)東のコラ半島にあるロシアの主要核要塞を監視・諜報できるようになった。アメリカはまた、北部にあるノルウェーの空軍基地を大幅に拡張し、ボーイング社製の P8ポセイドン哨戒機一式をノルウェー空軍に提供し、ロシア全般の長距離監視を強化した。
その見返りとして、ノルウェー政府は昨年11月、国防補足協力協定(SDCA)を可決し、議会のリベラル派と一部の穏健派を怒らせた。この新協定では、北部の特定の"合意地域"において、基地外で犯罪を犯したアメリカ兵や、基地での作業を妨害したことで告発されたり疑われたりしたノルウェー国民に対して、アメリカの法制度が司法権を持つことになった。
ノルウェーは、冷戦初期の1949年にNATO条約に最初に署名した国のひとつである。現在、NATOの最高司令官は反共産主義に熱心なイェンス・ストルテンベルグで、彼はノルウェーの首相を8年間務めた後、2014年にアメリカの後ろ盾を得てNATOの高官に就任した。彼はプーチンとロシアのすべてに対して強硬派で、ベトナム戦争以来、アメリカの情報機関に協力してきた。それ以来、彼は完全に信頼されている。
「彼はアメリカの手にフィットする手袋だ」と、その情報源は言った。
ワシントンに戻ると、立案者はノルウェーに行かなければならないことを知っていた。
「彼らはロシアを嫌っていたし、ノルウェー海軍は優秀な水兵とダイバーが多く、収益性の高い深海石油・ガス探査の経験を何世代にもわたって積んでいた」と情報源は言う。また、この作戦を秘密にしておくことも可能だった。
(ノルウェー側には他の利益もあったかもしれない。ノルドストリームを破壊することで、もしアメリカが成功すれば、ノルウェーは自国の天然ガスをヨーロッパに大量に販売できるようになる)
3月に入ってから、数人のメンバーがノルウェーに飛び、ノルウェーのシークレットサービスや海軍と会談した。バルト海のどこに爆薬を仕掛けるのが最適なのか、それが重要な問題だった。ノルドストリーム1と2は、それぞれ2本のパイプラインを持ち、ドイツ北東部のグライフスワルト港に向かう途中、1マイル(1.6km)余りの距離で隔てられていた。
ノルウェー海軍は、デンマークのボーンホルム島から数マイル離れたバルト海の浅瀬にある適切な場所をいち早く見つけ出した。パイプラインは、水深260フィート(79m)の海底を1マイル以上離れて走っていた。ダイバーはノルウェーのアルタ級掃海艇から、酸素、窒素、ヘリウムの混合ガスをタンクから流しながら潜水し、コンクリートの保護カバーで4本のパイプラインにC4爆薬を仕掛ける。面倒で時間のかかる危険な仕事だ。しかし、ボーンホルム沖にはもうひとつ利点があった。それは、潜水作業を困難にするような大きな潮流がないことだ。
少し調査したあとで、アメリカ側は全面的に賛成していた。
この時点で、パナマシティにある海軍の世に知られていない深海潜水調査団が再び活躍することになる。パナマシティの深海学校は、訓練生がアイビー・ベル(ソ連の海底ケーブルを盗聴した米国の極秘プログラム)に参加したこともあり、アナポリスの海軍兵学校を卒業したエリートには不要な僻地と見られている。彼らは通常、シール(海軍特殊部隊)、戦闘機パイロット、潜水艦員に任命されるという栄光を求めていた。もし、"黒い靴 Black Shoe(米・海軍、空母で働くが飛行に関与しない人)“、つまり、あまり好ましくない水上艦の司令部の一員にならなければならないのなら、少なくとも駆逐艦、巡洋艦、水陸両用艦の任務は常にある。最も華やかさに欠けるのが機雷戦である。ダイバーがハリウッド映画に登場することもなければ、大衆誌の表紙を飾ることもない。
「深海ダイビングの資格を持つ最高のダイバーは結束の固いコミュニティであり、この作戦には非常に優秀な者だけが採用され、ワシントンのCIAに呼び出されるよう準備するように言われる」と情報源は言った。
ノルウェーとアメリカは場所と工作員を確保したが、もうひとつの懸念があった。ボーンホルム沖で異常な水中活動があれば、それを通報できるスウェーデンやデンマークの海軍の注意を引くかもしれない。
デンマークはNATOの当初からの加盟国であり、イギリスと特別な関係にあることは情報機関でも知られていた。スウェーデンはNATO加盟を申請しており、水中音波と磁気センサーシステムの管理能力に優れ、スウェーデン群島の離れた海域に時折現れ、浮上せざるを得ないロシアの潜水艦を見事に追跡していることを実証していたのである。
ノルウェー側はアメリカ側と一緒になって、デンマークとスウェーデンの高官に、この海域での潜水活動の可能性について概要を報告するようしつこく要求した。そうすれば、上層部の誰かが介入して、指揮系統から報告書を排除することができ、パイプライン作戦を保護することができる。この情報源は「彼らが聞いたことと知っていることは、故意に違っていた」と語った。
(この記事についてコメントを求められたノルウェー大使館は回答をしなかった)
ノルウェー側は、他のハードルを解決するカギを握っていた。ロシア海軍は、水中機雷を偵察し、作動させることができる監視技術を持っていることが知られていた。アメリカの爆発物は、ロシア側に自然界の一部として見えるようなカモフラージュが必要だった。──そのためには、海水の塩分濃度を調整する必要があった。ノルウェー側は解決策を持っていた。
ノルウェー側は、この作戦をいつ行うかという重大な問題に対する解決策も持っていた。ローマの南に位置するイタリアのゲータに旗艦を置くアメリカ第6艦隊は、過去21年間、毎年6月にバルト海でNATOの大規模演習を主催し、この地域の多数の同盟国の艦船が参加している。6月に行われる今回の演習は、“バルト海作戦 22″(BALTOPS 22)と呼ばれる。ノルウェー側は、この演習が機雷を設置するための理想的な隠れ蓑になるだろうと提案した。
米国側は、ある不可欠な要素を提供した。それは、第6艦隊の計画担当者を説得して、このプログラムに研究開発演習を追加させたことだ。海軍が公表したこの演習は、第6艦隊と海軍の"研究・戦争センター"とが共同で行うものだった。海上での演習はボーンホルム島沖で行われ、NATOのダイバーチームが機雷を設置し、最新の水中技術で機雷を発見・破壊し競い合うというものだった。
これは有益な訓練であると同時に、巧妙な偽装でもあった。パナマ・シティーの若者たちは、BALTOPS22の終了までにC4爆薬を設置し、48時間のタイマーを取り付ける。アメリカ側とノルウェー側全員、最初の爆発までにはとっくにいなくなっている。
日数がどんどん過ぎていった。
「時計は時を刻み、我々は任務達成に近づいていた」とその情報源は言った。
その後、ワシントンは考え直した。爆弾はBALTOPSの期間中も仕掛けられるが、ホワイトハウスは爆発までの期間が2日では演習の終わりに近すぎるし、アメリカが関与したことが明らかになることを懸念した。
そこで、ホワイトハウスは新たな要求をしてきた。
「現場の連中は、後でコマンドでパイプラインを爆破する方法を思いつくだろうか?」
しかし、大統領の優柔不断な態度に、計画チームの中には怒りや苛立ちを覚える者もいた。パナマ・シティのダイバーたちは、BALTOPSの時と同じようにパイプラインにC4を仕掛ける練習を繰り返していたが、ノルウェーのチームは、バイデンが望むもの──自分の好きなタイミングで好結果の実行命令を出すことができる手腕──を実現する方法を考えなければならない。
このような土壇場での変更は、CIAの得意とするところだった。しかし、それは同時に、この作戦の必要性と合法性をめぐって、一部の人々が共有していた懸念を新たにすることにもなった。
大統領の秘密命令は、ベトナム戦争時代のCIAのジレンマも呼び起こした。反ベトナム戦争感情の高まりに直面したジョンソン大統領は、アメリカ国内での活動を禁じているCIAの憲章を破って、反戦指導者が共産主義ロシアに支配されていないかどうか、CIAにスパイ活動を命じることで憲章に違反したのである。
CIAは最終的に黙認した。そして、1970年代に入ってから、どこまでやる気なのかが明らかになってきた。その後、ウォーターゲート事件の余波で、CIAによる米国市民へのスパイ行為、外国人指導者の暗殺への関与、社会主義政権サルバドール・アジェンデの弱体化などが新聞で暴露されたこともあった。
これらの暴露は、1970年代半ばにアイダホ州のフランク・チャーチを中心とする上院での一連の劇的な公聴会につながり、当時のCIA長官リチャード・ヘルムズが、たとえ法律に違反することになっても大統領の望むことを行う義務があることを認めていたことを明らかにした。
ヘルムズは非公開の未発表の証言の中で、大統領の密命を受けて「何かをするとき、ほとんど無原罪懐胎(聖母マリアが受胎の瞬間から原罪を免れたという信念)のようなものだ」と後悔して説明している。
「それが正しいことであれ、間違っていることであれ、(CIAは)政府の他の部分とは異なる規則と基本的なルールの下で働いている」
彼は本質的に、CIAのトップとして、憲法ではなく国家(王冠)のために働いてきたと理解していると、上院議員に語っていた。
ノルウェーで働くアメリカ人たちも、同じような動きの中で、バイデンの命令でC4爆薬を遠隔で爆発させるという新しい問題に、ひたすら取り組み始めた。しかし、これはワシントンが想像していたよりも、はるかに厳しい任務だった。ノルウェーのチームには、大統領がいつボタンを押すか分からない。数週間後なのか、数カ月後なのか、半年後なのか、それ以上なのか。
パイプラインに取り付けられたC4は、飛行機で投下されたソナーブイによって短時間に作動するが、その手順には最先端の信号処理技術が使われていた。いったん設置されると、4本のパイプラインのいずれかに取り付けられた遅延装置は、近海や遠洋の船舶、海底掘削、震動事象、波、さらには海の生物など、交通量の多いバルト海全体で複雑に混ざり合った海のバックグラウンドノイズによって誤って作動してしまう可能性がある。
これを避けるために、ソナーブイを設置した後、フルートやピアノが発するような独特の低周波音を連続して発し、それをタイミング装置が認識して、あらかじめ設定された時間遅延後に爆発物を起動させる。
(「他の信号が誤って爆薬を爆発させるパルスを送らないような強固な信号が必要だ」と私はMITの科学技術・国家安全保障政策の名誉教授であるセオドア・ポストル博士から言われた。ペンタゴンの海軍作戦部長の科学アドバイザーを務めたこともあるポストル博士は、バイデンの遅れのためにノルウェーのグループが直面している問題は、偶然の出来事のひとつであると言った。「爆発物が水中にあればあるほど、爆弾が起動される信号がランダムに送られる危険性は高くなる」)
2022年9月26日、ノルウェー海軍のP8偵察機が一見日常的な飛行を行い、ソナーブイを投下した。その信号は水中に広がり、最初はノルドストリーム2に、その後ノルドストリーム1にも届いた。数時間後、高出力C4爆薬が作動し、4本のパイプラインのうち3本が使用不能に陥った。数分後には、停止したパイプラインに残っていたメタンガスのプール(溜まっていたもの)が水面に広がり、取り返しのつかないことが起こったことを世界中が知ることになった。
結果 FALLOUT
パイプライン爆破事件直後、アメリカのメディアはこの事件を未解決のミステリーのように扱った。ホワイトハウスの計算されたリークにより、ロシアが犯人である可能性が何度も指摘された。──しかし、そのような自虐的な行為に、単なる報復以上の明確な動機が見いだされることはなかった。数ヵ月後、ロシア当局がパイプラインの修理費用の見積もりをひそかに取っていたことが明らかになると、ニューヨーク・タイムズ紙はこのニュースを「攻撃の背後にいる人物についての説を複雑にしている」と評した。バイデンやヌーランド国務次官によるパイプラインへの脅しについて、アメリカの主要紙は掘り下げなかった。
ロシアがなぜ自国の儲かるパイプラインを破壊しようとするのか、その理由は決して明らかではなかったが、ブリンケン国務長官が大統領の行動のよりどころとなる根拠を示した。
昨年9月の記者会見で、西ヨーロッパで深刻化するエネルギー危機の影響について問われたブリンケンは、その瞬間を潜在的に良いものであると表現した 。
「ロシアのエネルギーへの依存をなくし、プーチンが帝国の陰謀を推進する手段としてエネルギーを武器化するのを阻止する絶好の機会だ。このことは非常に重要であり、今後何年にもわたって、とてつもない戦略的な機会を提供する。しかし一方で、我々は、このような事態が自国の市民、あるいは世界中の市民に負担を強いることがないよう、可能な限りのことをする決意だ」
さらに最近、ビクトリア・ヌーランドは、最も新しいパイプラインの消滅(活動停止)に満足していると表明した。1月下旬、上院外交委員会の公聴会で証言した彼女は、テッド・クルーズ上院議員に対し「あなたの言うように、ノルドストリーム2が海の底の金属の塊になったことを知り、私も、そして政府も非常に満足している」と述べた。
情報源は、冬が近づくにつれ、ガスプロムの1500マイル(2,414km)以上のパイプラインを破壊するバイデンの決定について、もっと抜け目のない見方をしていた。彼は、大統領について「あの男は度胸があると認めざるを得ない。彼はやるって言ったし、やったんだ」
ロシアが反応しなかった理由を聞かれ、彼は「アメリカと同じことをする能力が欲しいのかもしれない」と皮肉った。
「美しいカバーストーリー(特集記事、作り話)だった」と彼は続けた。
「その背後には、専門家を配置した秘密作戦と、秘密の信号で作動する装置があった」
「唯一の弱点は、それをやるという決断だ」
──おわり
Seymour Myron “Sy" Hersh(1937年4月8日生まれ)は、アメリカの調査報道ジャーナリスト、政治ライター。
ハーシュは1969年にベトナム戦争中のミライ村の虐殺とその隠蔽を暴露し、1970年に国際報道部門のピューリッツァー賞を受賞し、初めて知られるようになった。1970年代には、ニューヨーク・タイムズ紙でウォーターゲート事件を取材し、カンボジアへの極秘爆撃を明らかにした。2004年には、アブグレイブ刑務所での米軍による抑留者虐待を報道した。また、ナショナル・マガジン・アワードを2回、ジョージ・ポーク賞を5回受賞。2004年にはジョージ・オーウェル賞を受賞している。
ハーシュは、オバマ政権がオサマ・ビンラディンの死をめぐる出来事について嘘をついていると非難し、シリア内戦でアサド政権が民間人に化学兵器を使用したという主張には異議を唱えた。どちらの主張も論争を巻き起こした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
@kiyo18383090