SAFIREプロジェクト、フェイズ2+PDF(実験システム)

記事追加のお知らせ
この記事も含め、SAFIREプロジェクトはフェイズ1から3まで既に一度記事にしました。それとは別に、それぞれもう少し詳しく解説された PDFファイルが公開されています。それぞれ別の記事でまとめようと思っていましたが、煩雑になりそうなので、PDFファイルの内容はすでに公開した記事のあとにそれぞれ続けて掲載することにしました。
この記事は次の二つの記事を翻訳したものです。
SAFIREプロジェクト、フェイズ2
SAFIRE PHASE TWO」(PDF)
なお構成が少し違いますが「プロジェクトレポート」という PDFファイルにはフェイズ1から3まで、まとめて掲載されています。

SAFIRE実験システム

実証実験に入る前のコンピューター上でのシミュレーション、実験で使用される装置について書かれています。

▼ソーンヒルが語る太陽のレクチャー

Safireジンバル

フェイズ2

SAFIREのフェイズ1(概念実証)で学んだことはすべて、フェイズ2の設計、建設、試運転、そしてSAFIRE実験の最初の稼働開始に活かされている。

実験室の設計

材料購入のずっと前、フェーズ2実験室の組み立てと建設の前、モンゴメリー・チャイルズとジェイソン・リクバーは、AutoDeskソフトウェアを使用して仮想空間上で全体のセットアップを設計します。

モンゴメリー・チャイルズとジェイソン・リクバー
AutoDeskソフトウェア

各要素と材料の組成と容量が研究され、考慮される。ネジやワッシャーのひとつひとつに名前が付けられている。部品の数は44,000個にも及ぶ。

部品の数は44,000個にも及ぶ。

ハイエンドのソリッドモデラーで仮想3Dモデルを構築する。

ハイエンドのソリッドモデラーで仮想3Dモデルを構築する。

機械工学、電気工学、物理学、化学、数学、数値流体力学、写真……すべてが重要な役割を担っている。

サファイヤ製ビューポート(のぞき窓)で撮影する4Kデジタルビデオカメラ
サファイヤ製ビューポート(のぞき窓)で撮影する4Kデジタルビデオカメラ

ソフトウエアのソリッドモデラー(下記参照)を使って、問題のある箇所を特定する。故障の可能性がある箇所をリストアップする。ソリッドモデラーを使って、ハードウェアを購入する前に、仮想空間上で問題を解決する。

潜在的な欠陥モード

■チャンバー・フィードスルーのシールに使用されているOリングの溶融
■ビューポートへの熱応力
■応力の原因となる材料の熱膨張
■カメラへの熱影響
■放電──材料の侵食
■放電──材料の堆積
■材料の電気化学的分解
■分子溶解性

■どの程度の温度を扱うのか?
■この温度に到達するまでの時間は?
■チャンバーの熱加熱をどのように制限するか?
■ガスケットの熱的限界は?
■ビューポートの熱加熱をどのように制限するか?
■熱膨張の影響は?

■カメラとレンズの熱的限界は?
■プラズマの中で蒸発せずに生き残ることができる材料は?
■熱膨張時のチャンバー圧を安定させるには?
■分子溶解性は?
■疲労寿命は?
■映像のダイナミックレンジは?

Autodesk CFDは、エンジニアやアナリストが液体や気体がどのように機能するかをインテリジェントに予測するために使用する計算流体力学シミュレーション・ソフトウェアです。

Autodesk CFD:数値流体力学シミュレーション用ソフトウェア(熱流体解析ソフトウェア)

CFD(Computational Fluid Dynamics)は、実績のある応用数学方程式とアルゴリズムを用いて、流体、気体、材料に影響を与える様々な相互作用および非相互作用因子の影響を評価する。

CFDの結果には、熱勾配のマッピング、流体および気体の流れ、圧力、圧力損失、放射効果、熱損失、材料の最適化、流れの最適化、放射および熱対流の結果としての速度、その他多数が含まれる。

▼下の写真は動画の一画面です。この動画は張り付けることができませんので元サイトでご覧ください。

数値流体力学解析は、非常に詳細なフィードバックを得ることができる。
数値流体力学解析は、非常に詳細なフィードバックを得ることができる
(500℃のガス温度)

有限要素解析は、ソフトウェア・ソリッドモデラーです。

Finite Element Analysis (FEA):有限要素解析、有限要素法:実際の荷重、振動、熱、流体、およびその他の物理的な影響に、製品がどのように反応するかをコンピュータを用いて予測する方法

FEA(有限要素解析)は、構造、材料、機構に影響を与える様々な相互作用する力の影響を評価するために、実績のある応用数学の方程式とアルゴリズムを使用する。

FEAの結果は、設計の最適化、疲労解析、構造物の故障予測など、様々な用途に利用されている。

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有限要素解析──サンプル画像

(左)応力勾配         (右)変位勾配
   最大 応力           最大 変位量
   372.9N/(mm)         3.7mm(半径)

OIPTS(Open Issues and Project Tracking)──未解決の問題とプロジェクトの追跡

モンゴメリー・チャイルズは、このような複雑なプロジェクトを管理するための技術を開発した。OIPTS──未解決の問題とプロジェクトの追跡と呼ばれるこのシステムは、非常に効率的で、トヨタやGMなど多くの大企業で採用されている。

▼下の写真は動画の一画面です。この動画は張り付けることができませんので元サイトでご覧ください。

OIPTS──未解決の問題とプロジェクトの追跡

部品ひとつ購入する前に、仮想空間上ですべてを事前に構築し、テストすることを意図している。SAFIREは、調和と同調が必要な複雑な独自システムの配列で構成されている。ひとつでも設計を間違えれば、プロジェクト全体が危機に瀕するほどの大損害を被る可能性がある。

▼下の写真は動画の一画面です。この動画は張り付けることができませんので元サイトでご覧ください。

※ gimbal:ジンバル:ある軸を中心にして回転するリング状の台座。直交する2軸で回転するジンバルでは、ジンバルが動いても慣性の働きでその中に入れた物体の向きを一定にする働きがある。船舶の羅針盤や、航空機などのジャイロスコープを格納するのに用いられる。

▲クリックするとデータレコーダ(データ記録装置)が表示されます。(下の写真と同じ)

SAFCON、SAFIREコントロールルーム

SAFCON:SAFIREコントロールルーム(左上から順に右回りで)
5 領域高分解能光学分光法
データ変換
ライブ・ラボ・ステレオカメラ
リアルタイム紫外線測定
赤外線測定とリアルタイムチャンバー圧力制御
SAFIRE 監視制御・データ収集 SCADA
SAFCON、SAFIREコントロールルーム
6領域質量分析計
電源・プラズマパワー測定(ラングミュアプローブ)
高周波・電磁波測定

WebEx経由でScience Reviewチームにラボを見せるモンゴメリー・チャイルズ
WebEx経由でScience Reviewチームにラボを見せる
モンゴメリー・チャイルズ

WebEx:Web会議およびビデオ会議アプリケーションを開発および販売するアメリカの企業及び同社が提供するサービス

このチームの成功の尺度(目安)は、実際の部品がすべて現地に到着したとき、数ヶ月ではなく数週間という驚くべき速さで組み立てが進んだことだ。そして、組み立てが完了すると、システム全体が数時間のうちに予測通りに作動する。

SAFIREの初稼働
SAFIREの初稼働

SAFIREを計画通りに稼働させる過程で、数多くの実験が行われた。これらの実験結果は、”電気太陽モデル”の実現可能性を示唆している。さらに興味深いことに、中には予想外の結果もあった。驚くべき発見があったのだ。実験と発見については、フェイズ3をご覧ください。

フェイズ2: より多くのデータでより大きく

フェイズ2(PDF)SAFIRE PHASE TWO

フェイズ2:より多くのデータでより大きく
フェイズ2:より多くのデータでより大きく

より多くのデータでより大きく

実験装置の中心は、直径4フィート(1.2m)、長さ7フィート(2.1m)のステンレス製の円筒である。

実験装置、直径4フィート、長さ7フィートのステンレス製の円筒
チャンバー内部
新しい装置の計画とエンジニアリング

プロジェクト全体を通してそうであったように、新しい装置の計画とエンジニアリングには、実験計画法が採用された。システム制御、データ収集の強化、機能性は、考慮された多くの機能のうちの3つに過ぎない。

コンピュータ支援設計、数値流体力学、有限要素解析のソフトウェア
(上)500℃のガス温度、(下)2300℃のガス温度

また、コンピュータ支援設計、数値流体力学、有限要素解析のソフトウェアも使用した。

(高輝度放射線の照射によるチャンバー内の熱応力分布とガスの流れを示す数値流体力学)

※数値流体力学(Computational Fluid Dynamics、略称:CFD):数値流体力学とは、偏微分方程式の数値解法等を駆使して流体の運動に関する方程式(オイラー方程式、ナビエ-ストークス方程式、またはその派生式)をコンピュータで解くことによって流れを観察する数値解析・シミュレーション手法

プラズマを計測し、データを収集する装置部分

特に注目したのは、プラズマを計測し、データを収集する装置部分である。

チームは、ラングミュアプローブと質量および光学スペクトロメーターセンサーを取り付けるためのマニピュレーティング(操作)アームを設計した。このアームは、多軸のコンピュータ数値制御サーボモーターシステムにジンバルの特性を採用したユニークな設計になっている。独立した2つのジンバルが5つの自由度を提供し、0.01mmの位置精度で各プローブを同時に動かすことができる。

※ラングミュアプローブ:プラズマのプラズマ電位、電子密度及びプラズマ密度を比較的簡単に測定できる測定方法 

ラングミュア、光学および質量分析計のプローブ(白)がチャンバーの壁から突き出ている状態で、ジンバル(機械式ジャイロ)がチャンバーの外に出ている様子を示している

ラングミュア、光学および質量分析計のプローブ(白い棒)がチャンバーの壁から突き出ている状態で、ジンバル(機械式ジャイロ)がチャンバーの外に出ている様子を示している。

ジンバルアーム他


(左から)
真空、ガス、電源、冷却システムのフィード
中空アノード
ジンバルアーム──ラングミュアプローブ 質量・光学分光法
カソード

実験前のカソード、実験中のカソード
(左)実験前のカソード、(右)実験中のカソード
カソードもサーボモーターで制御

カソードもサーボモーターで制御され、正確に測定しながらアノードに近づいたり遠ざかったりすることができる。

▲[チャンバードアに取り付けられたコンピュータ数値制御のサーボ式カソードアクチュエータ(陰極駆動装置)とそれを囲む冷却シュラウド(冷却用の覆い)を示す]

陽極自体はエアロックに引き出し、チャンバー内の真空に実質的な影響を与えることなく交換することができる

陽極自体はエアロックに引き出し、チャンバー内の真空に実質的な影響を与えることなく交換することができる。

レイトン・マクミラン、ジョー・パレルモ、ヤン・オンダルコ、モンゴメリー・チャイルズ

リアクターチャンバーに陽極を装填するレイトン・マクミラン、ジョー・パレルモ、ヤン・オンダルコ、モンゴメリー・チャイルズ

チャンバー内、スチルカメラ、高速度カメラ、赤外線カメラ、紫外線カメラ

チャンバー内にはビューポートがあり、スチルカメラ、高速度カメラ、赤外線カメラ、紫外線カメラを外付けすることができる。チャンバー内部には、電波や電磁波を測定するためのアンテナが設置されている。

直流電流・電圧を生成できる電源
(左)一次側コントローラ、(右)一次側トランス

このプロジェクトのために、200kWのクリーンで連続的な直流電流・電圧を生成できる電源を構築した。この電源は、電圧と電流を独立して変化させ、モニターすることができる。

金属製のシュラウド

過剰な熱の問題を解決するために、金属製のシュラウド(覆い)が装置のチャンバーを取り囲んでいる。大容量高圧ファンでシュラウドの下に空気を送り込み、ジンバルマウントプローブ(ジンバル取付プローブ)は、加圧窒素ガスシステムで冷却され、陽極や真空ポンプなどの冷却には循環式脱イオン水を使用している。

これらの冷却システムにより、小型のベルジャーでは不可能だった長時間の実験が可能になった。予期せぬ余熱の問題は残る。

水素や重水素などのガスを導入し、異なる気圧の中で実験を行うことができる

水素や重水素などのガスを導入し、異なる気圧の中で実験を行うことができる。真空ポンプにより、チャンバー内の圧力を0.1ミクロンまで下げることができる。

クライオポンプ

クライオポンプ(極低温真空ポンプ)は、水蒸気を除去するなど、チャンバー内の気圧制御を補助するものである。安全対策として、チャンバー内を急速に窒素で満たすことができる。

 SAFIREコントロールルーム(SAFCON)でテストを行うポール・アンダーソン
SAFIREコントロールルーム(SAFCON)でテストを行うポール・アンダーソン

実験データ収集システム、安全システム、装置操作システム、すべてのバルブ、ゲージ(計測機器)、ポンプ、送信ユニットからの情報は、メインコントロールルームのコンピューターに送られ、多数のモニターに表示される。集められた情報は、その出所を問わず、すべてデータ収集変換エンジンに送られ、Linuxサーバー上で分類・ファイリングされる。この情報システムにより、実験後のデータマイニング(大量のデータ内から情報の“貴重なもの”を取り出す過程)や分析が簡潔に行えるようになった。

構成要素のほとんどが既製品で入手できるようになった
SAFIREの実験装置は4万個の部品から構成されている。

実験システムの構成要素のほとんどが既製品で入手できるようになったのは、比較的最近のことである。このため、数年前には実現できなかったような、堅牢で洗練された、比較的安価な装置の構築と運用が可能になった。

フェイズ3に続く

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

Posted by kiyo.I