許しの歌 フィガロの結婚<奥方よ、許してくれ>
許したとき流れる涙の歌
そう表現してもいいのではないかと思っています。それはモーツァルトのオペラ「フィガロの結婚」の終わり近くに歌われる<奥方よ、許してくれ>という歌です。フィナーレの直前に歌われます。
この歌の場面は、伯爵が浮気をしたことを妻の伯爵夫人に許しを請うところから始まり、伯爵から思いがけない言葉を聞いた伯爵夫人が心から許すシーンです。
これから紹介する動画には、クルレンツィス本人の声が途中で入ります。テオドール・クルレンツィスとそのアンサンブル、ムジカ・エテルナによる「フィガロの結婚」の演奏を聴いてみてください。
<奥方よ、許してくれ>は 10分30秒前くらいから始まります。
絶対に許せないという気持ちさえ溶けていく
これまで、いくつも「フィガロの結婚」の演奏を聴いてきました。ネヴィル・マリナーの演奏が好きでした。サムネイルに使いましたがジャケットもよかったですね。このクルレンツィスの<奥方よ、許してくれ>はなんて表現してよいのか、人を心から許す時の大きな愛を感じます。これまで私が聴いた他の演奏だと「元気よく」歌われていました。
ところが、この演奏はとても静かに、場にふさわしい雰囲気で歌われます。歌が途切れたところの余韻が何とも言えない美しさです。
この歌を聴いて、いつも感じるのは、心の中の深いところにある、いつの間にか忘れてしまった、なくしてしまった感覚のようなものを蘇らせてくれるような「懐かしさ」です。この歌を聴くたびに、「あのときの自分」に出会えるような感覚を覚えます。
感情がそことつながって、哀しみの涙と幸せが、一見、正反対のものが同時に溶け合います。切なさと喜びが溶け合って、天空に舞い上がります。(ちょっと、大袈裟でしたね)
初めてこの曲を聴いて、あぁ、いい曲だなと思ったのは映画『アマデウス』で最後の方に出てくるシカネーダーの公演のシーンでした。魔笛のパロディーのような舞台の終わりに替え歌で今日は皆さん見てくれてありがとうって歌っているシーンでした。舞台の締めくくりにふさわしく感謝の気持ちと、あぁ本当に素晴らしかったという会場全体の雰囲気が伝わってきて涙が出そうになりました。
この<奥方よ、許してくれ>の歌をクルレンツィスの演奏で聴くと、許せないとかたくなに決めていた人でも、もう許してあげようという気持ちになります。そして、こんな自分でも許されていいんだという気持ちにもなります。
大袈裟かな?
実はこの曲が聴きたくなるのはもう一つ別の理由があります。「フィガロの結婚」の終幕近くに歌われる<奥方よ、許してくれ>を聴くと感情と繋がりやすくなるからです。私にとっては感情とつながり内面に向き合うための導入歌のようなものです。しんみりするのです。故郷に帰ったような気がします。
SMJ (2014-06-04)
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