世界山(ワールドマウンテン)のシンボル──ディスコースseries no.20

神話の起源は全世界同じひとつの経験から始まった?

古代の歴史と神話お勉強シリーズ
さて、このテーマ、動画のコメント欄にサンダーボルツプロジェクトの「ウォーレン William F. Warrenパラダイス・ファウンド Paradise Found』、オニール JOHN O’NEILL神々の夜 The Night OF THE Gods』を参照」とあり、それぞれPDFファイルの形で公開されているので、調べてみました。どちらの書籍も日本の神話について書かれた章があったりして、面白そうでしたが、世界山(ワールドマウンテン)について書かれたところを探し出すのは至難の業だと思い諦めました。しかし、この「Discourses on an Alien Sky」のシリーズ、とにかく全部訳して見ようと思って始めたので、今後も継続して記事にしていこうと思っています。そのうち、なんとなく何かが見えてくるかもしれないと思って。

ワールドマウンテンのシンボル
Symbols of the World Mountain

1世紀以上も前から、ワールドマウンテン(世界山)にまつわる伝承が文書化され、学者たちがその説明を試みてきました。ワールドマウンテンは、世界軸に沿って転がり、天空の視覚的中心である天球上にあります。

ナラム=シンの勝利の碑;紀元前2255~2220年;黄色の斑点のある赤みがかった砂岩
ナラム=シンの勝利の石碑

しかし、どのような説明がなされているのでしょうか?

その答えは、想像力に富んだ広範囲のイメージの中から核となるアイデアを探り出すことでしか得られません。天空に関する言及は、単に山としてではなく、それ以上のものとして捉えられていました。このテーマを初期の表現にまで遡ることで、あらゆる神話的シンボルの下にある具体的な天空の形を再構築することができます。古代の複雑なコズミックマウンテン(宇宙山)のイメージは、現代では起きていない人間の経験の中でのみ意味を持ちます。

コズミックマウンテン(宇宙山)のイメージ

私たちの祖先の上にある空の出来事は、神話の内容を爆発的に増加させました。最初の形では、人類の目撃者は、偉大な山を宇宙の柱として、天空を視覚的に支えるものとして見ていました。

エジプト:世界の支柱として解釈される宇宙の円柱
エジプト:世界の支柱として解釈される宇宙の円柱

その山の頂上は、普遍的な主権者として記憶されている力の根源 seed でした。

エジプト:動かない太陽であり、天空の原初的な支配者であるアトゥム
エジプト:動かない太陽であり、天空の原初的な支配者である
アトゥム

最も古い伝統では、偉大な円柱は創造神自身の腰掛け perch(止まり木)、台座、あるいは休息場所として機能していました。

エジプト:放浪するアトゥムが静止した”台座”を表すヒエログリフ
エジプト:放浪するアトゥムが静止した”台座”を表すヒエログリフ

山頂の支配者は原始の太陽であり、天空の中心的な光でしたが、今日我々が太陽と呼ぶ天体ではありません。古代の王位年代記では、この太陽を”王の父”と呼び、神話上の最初の王であり、王権そのものの起源であるとしています。

サトゥルヌス:ローマ神話の農耕の神。初めて人間に農耕を教え、太古のイタリアに黄金時代を築いたという。ギリシャ神話のクロノスと同一視された。サターン。
サトゥルヌス:ローマ神話の農耕の神。
ギリシャ神話のクロノスと同一視された。サターン。

古代メソポタミアでは、シュメールのアン An、バビロニアのアヌ Anu と呼ばれていました。

アン、系譜図

エジプトでは、アトゥム=ラー Atum-Ra

エジプト:アトゥム=ラー、王の父
エジプト:アトゥム=ラー、
王の父

ギリシアではクロノス Kronos 神です。

ギリシャ:クロノス、王の父
ギリシャ:クロノス、王の父
イタリア:王の父、土星神
イタリア:土星神、王の父

これまでの連載で見てきたように、古代の天文学的な伝統では、この古来の支配力は惑星サターンとされています。私たちの現在の空は、過去への手がかり(解決のかぎ)ではありません。

古来の支配力は惑星サターン

コズミックマウンテンは常に神話の創造の場として登場し、山自体がその創造の物語の一部となっているのです。初期の伝統では、この山は宇宙の柱として描かれており、創造の中心的行為である大きな叫びが混沌とした破片の雲を生み出し、太古の太陽から爆発した発光体から生じたとされています。

右 :メソポタミア:天の爆発的な”栄光(後光)”
右 :メソポタミア:天の爆発的な”栄光(後光)”

古くからの天地創造の記述では、この爆発的な噴出物(射出物、放出物)が、天地創造のユニークな形を生み出す原料、すなわち原始物質であるとされてきました。人間の想像力は、この噴出物を様々に解釈しました。それは、混沌の雲や水であったり、まだ制御できない野蛮な、あるいは熱狂的な戦士の軍隊であったりしました。

ウィリアム・T・モード(イギリス、1865 – 1903)、ヴァルキリーの乗り物(1890)
ヴァルキリーの乗り物(ウィリアム・T・モード)

また、この噴出物は、創造主の光り輝く言葉としても捉えられました。目に見える(可視的な)言葉が叫ばれ、それが集まって具体的な形になり、ワールドマウンテンが創造主の下肢となる支えとなりました。

原始の丘アクートAkhutを想像した現代のイラスト
原始の丘アクート

エジプトの天地創造の記述では、この噴出物から世界の山が出現したことが決定的な瞬間として描かれています。

原始の丘
原始の丘」と名付けられた作品

それは、名高い原始の丘アクートの出現を意味しています。

アクート Akhut という名前は、アクー Akhu と呼ばれる噴出物に直接由来しており、創造の原始的な叫びとして噴出した放射状の力の言葉を意味しています。

アクー:創造主から爆発する、目に見える”力の言葉”
アクー:創造主から爆発する、可視的な”力の言葉”

アトゥムまたはラーと呼ばれる創造主は、天上をあちらこちら一人でさまよい、やがて静止した場所を見つけたと記されています。
「私が立つことのできる場所はなかった」
エジプトの天地創造の記述では、神はこう回想しています。
「私は一人だった。他に一緒に働いてくれる人はいなかった」
この言葉は非常に重要な意味を持っています。この天空の休息地は、実際にはワールドマウンテンであるアクートでした。そのため、”立つ”というヒエログリフには、支えられている、安定しているという意味が込められています。

エジプトの象形文字で”立つ”を意味する
エジプトの象形文字で
”立つ”を意味する

「それは、私が座るための腰掛け(止まり木)が形成される前のことだった」と神は述べています。

「それは、私が座るための腰掛けが形成される前のことだった」

ヒエログリフで表現された腰掛けとは、宇宙の山や柱のことであり、エジプト人がシュウ神として擬人化した柱そのものでした。エジプトでは、天地創造の物語の中で、天空の柱としてシュウが重要な役割を果たしていることを示すために、腰掛けの記号に創造主の紋章を置くことが一般的でした。神の台座、シュウの柱、そして創造の山を同等とみなすことは、エジプトの言語では疑う余地がありません。

休息する太陽神アトゥムを支える宇宙の柱として称えられたシュウ神
休息する太陽神アトゥムを支える宇宙の柱として称えられた
シュウ神

原始の丘に鎮座するオシリス神は「汝の台座の上で高貴な者のようであった」

オシリス神は「汝の台座の上で高貴な者のようだった」

また、”山の上にいる”神であるアヌビス神は、”台座の上にいる神”とも呼ばれていました。

エジプト:アヌビス神は「自分の山の上にいる神」……、「自分の台座の上にいる神」とも呼ばれていた

しかし、宇宙の柱の象徴は、様々な神話的解釈がなされています。それは、シュウに近いセプト神のヒエログリフ像を含んでいます。

シュウの対になる神、セプトのヒエログリフ
シュウの対になる神、
セプトのヒエログリフ

また、以前に考察したツインピークの山アクートも含まれています。

コズミックマウンテン、アクートのツインピークス
コズミックマウンテン、
アクートのツインピークス

そして、創造主の下の領域にあるエーテルの風や泉に関連するすべてのエジプト語が含まれます。

アトゥムが”一箇所に立つ”ことを表すヒエログリフ
アトゥムが”一箇所に立つ”ことを表すヒエログリフ
円柱の”エーテル(極めて優美な、この世のものとは思えない、空気のような)”または”風のような質”を表現するヒエログリフ
円柱の”エーテル(極めて優美な、この世のものとは思えない、空気のような)”または”風のような質”を表現するヒエログリフ

この光の柱がアトゥムの安住の地となったことは、コフィンテキストからも明らかです。
「偉大な神は生きている、空の真ん中に固定されている、彼の支えの上に」
このように、宇宙の柱と休息所という言葉が浸透していることは、古代思想の起源に関する一般的な仮定に大きな疑問を投げかけるものです。エジプトの天地創造の記述は、一貫してこの休息所が出現する前の時代に言及しています。しかし、見聞した出来事を捉えるためには、具体的な翻訳が不可欠です。アトゥムは初期の状態では一人であったことが明らかにされています。
「私は一人だった。私はシュウ[=天の柱]の形に唾を吐かなかった」
「私はテフヌト Tefnut[=女性の力の最初の形]を注いだのではない」###テフヌート
「他に協力者はいなかった」
「そして私は心を込めて礎を築いた」
「原始のアクー Akhu をシュウの姿で注ぎ出した(吐き出した)
文字通りの意味は爆発的な流出であり、最も強調して解釈されているのは、太古の太陽神が叫んだ”力の言葉 words of power”と呼ばれる目に見えるスピーチです。しかし、同じ流出物は、男性的な根源、水、火、風と解釈されます。

エジプト:天国の”アクー”または”栄光”として上昇するエーテルの流れ
エジプト:天国の”アクー”または”栄光”として上昇するエーテルの流れ

この太古の物質であるアクーは、見聞した出来事の中で、常に創造の素材として認識されています。ここでは、シュウ神として擬人化されたそびえ立つ柱の出現に焦点を当てますが、エジプトの神官たちは、同じ爆発的な出来事が、シュウの対極にある女神テフヌトの最初の姿を生み、創造の螺旋状の生命の息吹として現れると主張しましたが、これについては後ほど詳しく説明します。

エジプトの女神、テフヌト、シュウの女性版 
エジプトの女神、テフヌト、
シュウの女性版

創造主はこう言います。
「私は立つべき場所が見つからなかった」
「私の心から力のある言葉が出てきて、土台を作った」
この目に見える力のある言葉の叫びから、シュウの柱が生まれたのです。
「私は生命であり、星霜せいそう(歳月)の主であり、永遠に生きている……アトゥムが力のある言葉[アクー]でシュウを産んで作った最年長者である」
また、シュウはこう言います。
「私は自己創造者の手足で生まれた」
「彼は心の活動によって私を形づくり、彼は力のある言葉[アクー]で私を創造した」

燃えるような力の言葉を抽象的に解釈しようとすると、人間の経験が持つ明確な畏怖と恐怖を歪めてしまうことになります。エジプトの神官たちは、休息しているアトゥムを高く持ち上げた柱の神シュウが、創造主が最終的に休息するための腰掛け perch、あるいは台座 pedestal であることをはっきりと知っていました。そのため、あるコフィンテキストにはこう書かれています。
「私は深淵の向こうの地の上の自分の腰掛けの上に高く上げられている」 
別のコフィンテキストでは、その大いなる腰掛けについてこう書かれています。
「私はシュウのせいで倒れたりしない」

この安住の地はマーアット Ma’at の礎(土台)とも呼ばれていました。様式化されたマーアットの象形文字は、実際には原始の丘のイメージです。

エジプト:"マーアットの礎"

エジプト:"マーアットの礎"
“原始の丘"も意味する
太古の太陽の”台座”
永続的な礎
宇宙の秩序の源

しばしば、この象形文字は単に偉大な神の台座と読まれることもあります。根源的な意味では、マーアットは安定した永続的な礎、宇宙の秩序の源を示しています。創世記には、創造主が「マーアットの上で休息している」と書かれています。繰り返しになりますが、支えや礎の概念が山や丘と同化していることがわかります。

例えば、”セス thes”という言葉は、”支える、担う、持ち上げる”という意味であると同時に、”山”という意味でもあります。その理由は、祭祀のお祝いに関わる山は、天の礎であるコズミックマウンテンだけだったからです。これには例外はありません。ピラミッド・テキストの賛美歌には、
「コズミックマウンテンのように、太古の支えのように、私が天空に耐えられますように」とあります。

この天空の山のために、エジプト人は神話や儀式の中で常に振り返っています。亡き王に代わって、司祭はピラミッドの中の床に砂の山を注ぎ、その上に王の像を置き、次のような祈りを唱えました。
「アトゥムから生まれたこの土地に立ち上がって……その上にあなたの姿を置いてください」
注がれた砂は太古の物質を意味し、形づくられた丘は太古の丘を意味します。

そして、T・ランドル・クラークによれば、
「オシリスは世界の中心である原始の積み上げた山にある宮殿で裁きを受けている」ということになります。
王は「命の主 Lord of life のように、私の安息の地に納まりますように」と宣言しています。

原始の丘のおなじみの表現にオベリスクがあります。オベリスクの上に乗っている小さなピラミッド型の石は、創造主アトゥムの生きた魂であるベンベン Benben 石を表していました。

ベンベン、オベリスクの上に乗っている小さなピラミッド型の石

「アトゥム・ケプリ Atum-Khepri、あなたは丘のように高かった。汝はベンベンとして輝きを放った」
このように、オベリスクはエジプト語の ”メン men” という言葉のイディオグラフ(特定の個人や組織を示す記号)として使われるようになりました。この言葉は、”山” や ”台座” を意味していました。同時に、”安定” や” 一箇所に留まる” ことも意味していました。同じ語源から派生したのが、エジプト語の”メナ mena” または ”メナート menat ”という言葉で、天空の ”係留柱 mooring post ” を意味します。

エジプトのメナ、メナート:天の”係留柱”
エジプトのメナ、メナート:天の”係留柱”

エジプト人は、この固定された柱を、天の二次的な力が回転するための杭として考えていました。それが”メナ・ウーレット Mena Uret ” の意味であり、”偉大なる係留柱 Great Mooring Post ” です。それは男性的な支柱を、創造の螺旋状の生命の息吹として私たちが認識する母なる女神の補完的な象徴に結びつけています。

エジプト:”係留柱”のヒエログリフ
エジプト:
”係留柱”のヒエログリフ
エジプト:メナ・ウーレット”係留柱”
エジプト:
メナ・ウーレット”係留柱”

象徴をより深く掘り下げていくと、世界軸としての宇宙の柱、創造のポスト(柱)、ペグ(くい)、ステーク(杭、支柱)、ネイル(くぎ、びょう)、アンカー(いかり)などの特別なニュアンスに戻っていきます。著名な権威であるアンリ・フランクフォール Henri Frankfort は、この原理をよく理解していました。
「どこの国でも、混沌から生まれた最初の土地である創造の場には、生命力が宿っていると考えられていた。
そして、創造主として数えられるそれぞれの神々は、この丘と何らかの関係を持つようにされていた」

このアイデアの意義が人間の意識に真に刻まれるためには、それが曖昧な地域的な経験や抽象的なもの以上のものとして捉えられなければなりません。
それは、すべてがひとつの経験を指し示す、競合する想像上の解釈を通して保存された世界的な記憶なのです。

──おわり

コメントから

ThunderboltsProject
実際、100年以上も前から、ノーマン・ネルソンをはじめとする多くの学者が、世界の山を地球の極軸と見なし、その周りを今日の星々が視覚的に回転しているとして いました。
ウォーレン『パラダイス・ファウンド』、オニール『神々の夜』を参照。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

Posted by kiyo.I